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『HEART CATCH』! デザインとマーケの力で スタートアップを進化させろ。

2015/12/15

12月12日(土)、天王洲寺田倉庫にて画期的なイベントが開催されました。西村真里子氏の挑戦『HEART CATCH』。
スタートアップに、デザインやマーケティングをかけあわせることでイノベーションを加速化させようという試みです。
根底にある課題観としては、技術的につくれるものと、人々が欲しいと思うものは必ずしもイコールではないということ。
このギャップを埋めるにはデザインとマーケティングの知見が不可欠であり、2ヶ月に渡ってメンターという形で伴走することでスタートアップがどのように進化するのかを探ろうというチャレンジングなプロジェクトです。
本イベントは、その成果報告の場。変化を浮き彫りにするBEFORE&AFTER形式でのお披露目となりました。
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会場を訪れて、まずは実感。
これが、×デザイン、×マーケティング、ということかと。
倉庫跡地だというコンクリート打ちっ放しの会場は照明を落とした状態で、『HEART CATCH』のシンボルである黄色のワイヤーフレームで形造られたハートのモチーフを効かせたスタイリッシュな空間が用意されていました。
そして要所に展示された動物を模したアート作品は、本イベントのスポンサーによるもの。
本物さながらの迫力に、いたるところでシャッター音が響きます。
デザインの力、マーケティングの力でスタートアップを支援するというコンセプトがすみずみまでゆき渡っているさまに期待感が膨らみました。

この日、選ばれしスタートアップ5組は以下のチーム。

mana.bo スマホ家庭教師サービス
Neurospace/nemee 脳波を使った睡眠計測デバイス&睡眠アプリ
DFree 排泄の悩みや負担を軽減するソリューション
Quiver NZ発インタラクティブAR技術
HOTARU ポータブル水浄化システム/オフグリッド型水インフラソリューション

そして、西村氏の呼びかけに集ったメンターは、第一線でご活躍のみなさま。

MENTORS OF DESIGN
深津 貴之(THE GUILD)
本村 美絵(THE GUILD / SLEEPYTIGER)
奥田 透也(THE GUILD / ALUMICAN.NET / IROZA & 多摩美非常勤講師)
内間 ローザ(TBWA\HAKUHODO\QUANTUM)
原田 朋(TBWA\HAKUHODO\QUANTUM)
NIYA SHERIF(Mistletoe)

MENTORS OF MARKETING
江端 浩人(IMJ, 事業構想大学院大学教授, World Marketing Summitアンバサダー)
彌野 泰弘(Bloom & Co.)
前原 双葉(TBWA\HAKUHODO\QUANTUM)
竹中 野歩(TBWA\HAKUHODO\QUANTUM)

MENTORS OF SPEECH
魚住りえ氏 魚住式スピーチメソッド代表
吉村美紀氏 魚住式スピーチメソッド

ゲストスピーカーも豪華な顔ぶれです。

高宮慎一氏 株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー/Chief Strategy Officer
田川欣哉氏 takram design engineering代表/Royal College of Art 客員教授
野々村健一氏 IDEO Tokyo Director,Business Design&Development
田子學氏 株式会社エムテド 代表取締役 アートディレクター/デザイナー
山添藤真氏 京都府与謝野町長
柳澤大輔氏 面白法人カヤック CEO
Brandon K. Hill氏 Founder and CEO

そのほか、Mistleto株式会社CEOの孫泰蔵氏など、西村氏の挑戦に賛同した多くの方が駆けつけましたが、麻生要一氏(Media Technology Lab. 室長)もそのひとり。スポンサードという形で西村氏の取り組みを支援するとともに、MTLの取り組みから、会場に集った方々に有益な事案をシェアさせていただきました。

スタートアップを加速化させるMTLの取り組み

プログラムの中盤で機会をいただいた麻生氏のスピーチから、本レポートをはじめましょう。
麻生氏、マイクを握っての第一声は「HEART CATCH応援団のひとり、麻生です!」 これには、西村氏も感激。
会場からも、あたたかな拍手があがりました。そして、そのままスピーチに入ること5分。まず、自身が室長を務めるMTLがリクルートグループの新規事業開発を加速化させる専門セクションであり、ステージゲート方式のもと、年間500ものプロジェクトが起案応募されている事実に触れると、会場から驚きの反応があがりました。
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次いで、リクルートが運営するオープンイノベーションスペースである『TECH LAB PAAK』についても、「ビジネス、社会的な取り組み、研究など、分野にとらわれず、また会社・団体・個人を問わず、この社会をよくするイノベーションの創造を応援する場です。」と述べました。

くわえて会場にデザイナーが多いことを受けて、社会を変えるデザイナーのためのニュースメディアを標榜する『L’OREM』や、同メディアが主催する、UXについて考える勉強会『UX Sketch』についても触れ「私たちは、みなさんと一緒に学び、一緒に挑戦していきたい」と会場に呼びかけました。ちなみに会場には、イベント前日に開催された「UX Sketch vol.6」にご登壇いただいた株式会社エムテド 代表取締役の田子學氏がゲストスピーカーとして居合わせるという嬉しい偶然もありました。

さらに、限られた時間のため詳細に触れられなかったのが非常に残念ですが、UX開発の成功事例も紹介されました。

ひとつは、飲み会や会議など、複数名が参加する場の日程調整をサポートする『調整さん』について。
リリースから10年、今年に入るまで進化を止めていたサービスが、UXのABテストで息を吹き返し、半年でユーザー数を2倍の1000万人に引き上げた事実は大きな関心を誘いました。

もうひとつは『KOLA』。
麻生氏が「スマートニュースのエンタメ版」と紹介した同サービスは、起案当時からUIの美しさが際立っていました。UIの美しさは戦術というよりも、戦略。そこにスケール要因があったといっても過言ではありません。そうした背景を持つ『KOLA』の事例は、本イベントの趣旨にも合致しており、参加者も大いに頷けることだったのではないかと思います。

しかし、なにより会場の共感を得たのは、12月にリリースしたばかりの『BRAIN PORTAL』だったといえるでしょう。
端的にいえば、ハードウェアスタートアップの支援を目的に、中小企業や工場・専門家とのマッチングを行うサービス。
しかし、麻生氏はその意義を熱い言葉で語りました。
「クラウドファンディングで、誰もが簡単にプロダクトをつくれる時代になりました。しかし、いざ量産化となったとき、このハードルをクリアできずに倒産するスタートアップが多い。実に80%にものぼります。私たちは、ここにサービスを提供します。デザイナーのみなさん、スタートアップのみなさん、ぜひ声をかけてください」
と呼びかけたのです。
これに共鳴してくれたのが、イベント主催者である西村氏。
「それって、めちゃくちゃ嬉しいよね?」と飾らない言葉で会場に賛同を求める姿が印象的でした。ありがとうございます!

編集部リコメンド。
『HEART CATCH』ならではのピッチ&セッション

麻生氏の、たった5分のスピーチでも大いに沸いた会場ですが、プログラムの要といえる参加スタートアップのピッチやゲストスピーカーによるセッションはその比ではありませんでした。それぞれ印象的でしたが、本レポートでは編集部リコメンドとして、ピッチとセッションをひとつずつご紹介します。

スタートアップ ピッチ BEFORE AFTER

Neurospace/nemee 脳波を使った睡眠計測デバイス&睡眠アプリ
株式会社ニューロスペース 代表取締役 小林孝徳氏

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BEFORE

自身も睡眠障害に苦しんできたことから、産学協同にて愚直に睡眠を研究。ハードウェア、ソフトウェアの技術者を中心としたチームで、脳波計、睡眠アプリ、快適な睡眠を体験できるスペースなど、最高水準の技術で追求したが、具体的なターゲットやお客様に買ってもらうという観点を追求したプロダクトデザイン、ビジネスモデルなどが見えていないという課題が。

AFTER

登壇テーマ「技術がプロダクトに変わるとき。ユーザーを考えることで実現した睡眠サポートの形」

小林氏は、国民の20%が睡眠障害に悩んでいる現状と、それによる経済的損失が4兆円に達している事実を述べたうえで、解決できていない理由を「快適な睡眠を計測するデバイスがないこと」と指摘。指針となる「眠りの深度」をはかるデバイスが普及していない現状があると述べました。小林氏は、これを解決する技術を持っています。しかし、前述のとおり課題がありました。これに対し、『HEART CATCH』がマッチングしたメンターとのディスカッションがブレイクスルーをもたらしたといいます。

あらためて整理された課題は、3つ。「ターゲットがみえてない」「商品設計ができてない」「ビジネスモデル、具体的な売り方がみえてない」

ターゲットを「生産性を求める外資系や居眠り運転リスクを回避したいタクシー会社を想定していた」という小林氏。しかし、そこにニーズはありませんでした。現場ヒアリングでつかんだのは、メンタルヘルスを管理したい企業、たとえばIT企業や外食チェーン。とくに外食チェーンには、ブラック企業というレッテルを貼られる現状にムーブメントを起こしたいという欲求がありました。従業員満足や離職率の低減、採用ブランドやCSRの向上の手段として睡眠の質向上に着目したのです。

小林氏は、BtoC観点でも気づきがあったといいます。当初、ビジネスアスリートなどをターゲットに想定していましたが、500人くらいに調査をした結果、女性30代のキャリア層というターゲットが浮上したのです。アロマやハーブ、エステなどにお金を投じている人というパーソナリティも目安となりました。

革新的だったのが、商品設計。脳波測定デバイスは、寝具として提供するというゴールにたどりつきました。海外では馴染みの深いナイトキャップにCPUやバッテリーといった脳波測定に必要な機器を搭載し、スマホのアプリでデータを管理するのです。
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そしてブラッシュアップした商品やサービスを統合するためのブランドを立ち上げたといいます。メッセージとして掲げるのは「眠りは技術です。だから上達します。眠れないことをあきらめていませんか。眠りはスキルであり、上達するものと考えます。私たちには医学的メソッドに基づく知見があります。あなたが技術を修得してスキルアップするための支援します。眠りを、脳波から精密に測定するテクノロジーがあります。現状を把握し、改善を実感していただきます。」

現在、実際に企業の従業員と面談を行い、悩みをデータ化し、具体的なソリューションを提供している小林氏。将来的には対面の面談を持たずとも、オンラインデバイスでソリューションを提供できる状態や、オーダーメイドの睡眠サポートを提供したいと意欲的に語ってくれました。

小林氏が目指すのは、一人ひとりの睡眠の質を高め、能力を最大化できる世の中の実現。その志を、『HEART CATCH』が力強く後押ししたことが実感できるピッチでした。

トークセッション:デザインとマーケティング

高宮慎一氏 × 柳澤大輔氏

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高宮氏から柳澤氏への質問。「面白法人を掲げるにあたり、カヤックならではのクリエイティブ論はありますか?」に対し、
柳澤氏は「(イベントの流れとして)デザイナーの視点がつづいたので、あえて経営者視点で」と前置きしたうえで、
「デザインは言語化できないものだから難しい。経営は投資。どう回収するかという観点に立ったとき、マーケティングは数値化しやすいけれど、デザインという言語化できないものに、どう投資するかという経営判断が必要になってきます。そこをはかれる経営者はほとんどいません。ほぼ、直感。そこをデザイナー側が提案する時代がきていると思う。」と。

さらに「Googleは、デザインの価値をテクノロジーで数値化しようとしている。できると思う。でも、最後の最後は直感の部分があり、その組み合わせ。」とも。

それに対し高宮氏から「直感というと、ひらめきととらえる傾向があるけれど、実は経験の積み重ね」という視点が重ねられました。

また「費用とは、そのものが持つ本質価値と同義。たとえばロゴひとつで1000万円というのは、どんなシーンでどのような効果が得られるかという話で、作業自体の所用時間は1時間かもしれない。そこには、キャリアのあるデザイナーが蓄積してきた経験という価値がある。でも、スタートアップなら、キャリアの浅い人と組むという選択肢があると思う。そもそもスタートアップのスピード感を考えれば、デザインに時間をかけないという視点も」と柳澤氏。

スピード感というキーワードを受けた高宮氏は、それでもデザインを起用する意義として「テクノロジーの進化で事業の差別化が難しい時代。デザインの価値を早期に組み込むことで差別化をはかるという考え方がありますよね」と。

これに同意した柳澤氏は「デザイナーやマーケッターに、経営者の資質を支援するという価値提供が求められています」と返しました。

そこに高宮氏からの各論の質問「カヤックは、コンテンツやデザインが素晴らしいという観点で語られるが、実行の部分を大事にしていて、そこに強みがあるのが競争優位性になっていると感じます。ユニークなプロジェクトを形にするために取り入れていることはあるのでしょうか」があがると、

「面白法人という言葉と向き合う場を年に何度か設けています。そこで生まれたものがヒットしたり、しなかったり、そういうサイクルでカヤックの価値を追求しています」と柳澤氏。

高宮氏はうなずきながら「カヤックに対して驚いたのは、成長企業でありながら、組織としてやりたいことのHOWとして事業戦略があること。クリエイティブと、それを支える人を大事にするスタンスがカヤックの肝だと思うんです」と率直に語りました。

逆に柳澤氏から高宮氏にも質問が。「デザイナーがスタートアップに関わることで対価を得られるのか。株を得るという現状はあるが、成立しているのか。」
痛いところを突いた感のある質問です。

高宮氏も「実は難しい」と。「100打って、1あたるという現状がある。ファンドとの組み合わせなどを模索している」と述べました。

まだまだ課題がある現状が浮き彫りになり、その先を聞きたいという欲求が高まりましたが、残念ながらここでタイムアップ。

柳澤氏が最後に「今後、スタートアップへのデザイン投資を考えているからこその質問でした。」とスタンスを表明し、
今後の展開が楽しみな幕引きとなりました。

異なる文脈を持つ人との化学反応が会場でも

プロジェクトの意義が実感できるピッチに、会場はMAXといえる盛り上がりをはくしました。
ピッチの内容もさることながら、BEFORE&AFTERでみせるという仕立も盛り上がりの要因として大きかったのではないかと感じます。
商品・サービスの成り立ちはもとより、オーナーも自覚のなかった課題がデザイナーやマーケッターの視点やアプローチで浮き彫りになる。
そこをクリアしたうえで迎えた晴れやかなステージには多くの気づきを得ることができましたが、
それ以上に、失敗を恐れずに何度でも立ち上がろうというメッセージが感じられたからです。
多くのスタートアップにとって励みとなったのはもちろん、デザイナーやマーケッターの胸にも、
新しい挑戦がしたいという思いが去来したのではないかと思うのです。
異なる文脈の人々が集う会場の想いを集約し、ともにチャレンジしようという気運に包まれた刺激的な場だったと感じます。
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そして、スタートアップも、メンターも、ゲストスピーカーも、それぞれの立場で語りながらも共通するお話が多かったことが印象的でした。
中でも、出会いの大切さ。化学反応の大切さ。

スポンサーのひとり、孫泰蔵氏が参加者の気持ちを代弁するような閉会の挨拶をされました。
「スタートアップ関連のイベントというと、いつも似たような顔ぶれだったりします。今日は、ふだん会うことのない方々と出会えて本当に楽しかったです。」

デザインやマーケティングは、ひとつの手段。西村氏のチャレンジの本質は、自分と異なる文脈を持つ人と手をとりあおう。その人との間にある垣根を超えよう。お互いの得意を持ち寄って、みんなで世界を変えようということ。それはまさに、MTLが推進するオープンイノベーションが目指すところでもあります。

本イベントへの協賛がどのような化学反応を生むのか。MTLにどんなラブコールが舞い込むのか。大きな期待とともに、この先の動向に注目したいと思います。

編集後記
日本のスタートアップはシリコンバレーどころか、インドや中国にも大きく差をつけられている現状があります。本イベントをきっかけに、日本全体にスタートアップを応援する気運が広がるといいなと感じました。もちろん、MTLもこれまで以上に邁進します。そして、あらためて主催者である西村氏の着眼点と行動力に敬服します。真っ赤なブーツがお似合いで、私のHEART も、がっちりCATCHされました。