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日本で唯一の「お化け屋敷プロデューサー」五味弘文氏が語るプロデューサー論とは? -PRODUCERS CAMP vol.4 レポート

2017/03/16

お化け屋敷って、ただ怖いだけのものだと思っていませんか?
お化け屋敷を“楽しく”するための “緊張と緩和”とは?

さまざまな業界の第一線で活躍するプロデューサーをお招きし、計6回のセミナー講座を行うPRODUCERS CAMP TOKYO。その4回目は、日本でただ一人”お化け屋敷プロデューサー”として活躍されている五味弘文さんをお招きして、1月28日にMedia Technology Lab.(以下、MTL) Caféで行われました。

五味さんは、1992年に、後楽園ゆうえんち(現・東京ドームシティ アトラクションズ)において『麿赤兒のパノラマ怪奇館』を開催して大きな反響を呼び、“お化け屋敷プロデューサー”としてのキャリアをスタート。お化け屋敷に、オリジナルの「ストーリー」を持ち込むスタイルを確立させたパイオニアでもあります。そんな五味さんに、M T Lの古川が、みんなの気になるあんなことやこんなことをつっこんで聞いていくトークセッションの様子をしっかりとレポート。知っているようで知らない、お化け屋敷という“エンターテイメントの世界”にみなさんをお連れします!

原点は、イベント企画・制作のアルバイト

古川
まずは、五味さんの経歴を教えていただけますか?

五味さん
“お化け屋敷プロデューサー”としてお仕事をしています。1992年の後楽園ゆうえんちの夏のイベントで、大人の夜の遊園地として”ルナパーク”というものをやっていたんです。その中の一つの特別興行としてやらせていただいたものが、僕が最初に手がけたお化け屋敷で、その後は毎年、東京ドームシティ アトラクションズさんで夏限定のお化け屋敷を25年間やらせていただいています。後は、地方や遊園地以外のところでのお化け屋敷の展開もやらせていただいています。

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古川
ちなみに“お化け屋敷プロデューサー”は、五味さん以外にいらっしゃるんですか?

五味さん
そういう風に名乗っているのは、僕だけだと思います。でも、同じような仕事をしている方は他にもいらっしゃいますね。

古川
“お化け屋敷プロデューサー”になる前は、何をされていたんですか?

五味さん
その前は、お芝居をやっていましたね。

古川
そうだったんですか!? そこからどのように、今のお仕事をされるようになったんですか?

五味さん
お芝居をやっていたからこうなった、というわけではないんです。お芝居だけでは食べていけないので、アルバイトをするじゃないですか。そのアルバイトが、イベントの企画・制作でした。その仕事の中でたまたま後楽園ゆうえんちの”ルナパーク”の仕事が入って、お化け屋敷の企画を出したところ、評判がよかったという感じで。

古川
その時のお話なんですが、いきなり起業をするというかたちだったんですか?それとも、どこか会社に所属していたんですか?

五味さん
僕は、就職したことがないんです(笑)。
大学を卒業した後、お芝居をやろうと思って個人で活動していましたし、イベント会社でもアルバイトとして働いていました。それで、後楽園ゆうえんちの”ルナパーク”の企画でお化け屋敷を出したんです。その後もお仕事をしていく中である年に東京ドームシティ アトラクションズさんのお化け屋敷自体を改修するということになったんです。それを機に、会社をつくろうか、ということになりました。

古川
先に仕事があって、自然な流れで起業したという感じだったんですか?

五味さん
そうです。今の起業という概念と、当時の起業という概念はだいぶ違っていて、ちょうど学生起業家とかも出始めた頃でしたね。
まさに、リクルートの創業者である江副さんが、当時の学生起業家のトップランナーでしたよね。その江副さんに追いつこうといろんな大学から起業家が生まれて…。それで僕も、仕事が軌道に乗ったから会社にしようと。僕の場合は、当時”会社ごっこ”のようなノリでしたね。(笑)

古川
なるほど。話は戻りますが、最初にプロデュースされたお化け屋敷はどういうものだったんですか?

五味さん
『麿赤兒のパノラマ怪奇館』というものです。麿さんは役者としても活躍されているので、みなさんお顔を見たことがあると思うんですが…怖いお顔ですよね(笑)。「大駱駝艦(だいらくだかん)」という前衛的な舞踏集団をやっていた当時からすごいお方。そんな麿さんに、僕がお化け屋敷を頼んでもいいんだろうかと思いながら企画を持っていきましたね。麿さんは、あんなお顔をされていますから(笑)。

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古川
ちょっと怖いですよね(笑)。

五味さん
怒鳴られるんじゃないかと思いながら、おそるおそるお話をしにいったら「おもしろいじゃないか」と言ってもらえて。

古川
今回はPRODUCERS CAMPというイベントですが、プロデューサーとしてどのようなお話をしていただけるんでしょうか?

五味さん
今回のイベントの他の回には、そうそうたるメンバーが出られていて、そういう中で僕は「お化け屋敷プロデューサー」と名乗りながら、ほんとうにプロデューサーと呼べるのかなと首をかしげるところがあって…。どちらかというと、クリエイティブな方に偏っている人間じゃないかと思っているんです。でも、お化け屋敷という特殊なエンターテイメントが一体どうやって成立して、どうやってつくっていくのか、どんなことを工夫しているのかというところをお話することで、「特殊なイベントをプロデュースするということは、こういうことなんだ」と感じてもらって、それを他の仕事に当てはめてもらった時に、どんな汎用性を持つかということを汲みとっていただければいいかなと。

古川
はい。分野が専門的ですが、確実にどの分野にもつながるものがありますので、みなさん意識しながら、汲み取りながら聞いていただければと思います。

 

「恐怖」を「楽しさ」に変えるメカニズム

古川
そもそも、お化け屋敷という場所は「怖いところ」という認識でよろしいですか?

五味さん
僕も最初の頃は、お化け屋敷は「怖いところ」だと思っていて、いかに怖いお化け屋敷にするかが僕の仕事だと思っていたんです。でも、途中からそうではないなと思い始めたんですよ。
というのも、僕がずっと現場に入って見ているとお化け屋敷の中で笑い声が上がったり、出てきたお客さんが笑い転げていたりという様子を見かけたんです。最初の頃はそれを見て、このお化け屋敷は失敗したんじゃないかなと思っていました。お客さんは震え上がって声も聞けない、家に帰ってもトイレにも行けないというものが、お化け屋敷のあるべきスタイルじゃないかなと思っていたので。

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でも、そうではないのかもしれないと、いつしか思うようになって…。
ただ単に怖いだけであれば、僕のお化け屋敷よりも遥かに怖い場所はたくさんあるし、夜中に山奥の廃屋に行く方がよっぽど怖い。でも、そういうところにお客さんが何万人と集まるかといったらそうではない。お客さんが求めていることはただ単なる怖さではないんです。最終的には「恐怖」だけではなくて「楽しさ」を求めてくる場所だと思うんですよね。そこに、お化け屋敷というエンターテイメントの本質があるんじゃないかなと。

古川
普通なら、怖いところは避けたいですよね。でも、それをエンターテイメントとして確立されているところがお化け屋敷の特殊性というか、めずらしい部分ですよね。

五味さん
まさに古川さんがおっしゃる通りで、怖いことは体験したくないですよね。その恐怖とか不安を避けるために保険があったり、貯蓄があったりするんです。そういうものを利用していかに怖いことを回避できるかを考えて生きているわけですよね、人間は。なのに、もう一方で、人間は“恐怖”を体験しに、わざわざお化け屋敷にいく。それはどういうことかというと、“恐怖”体験から“楽しさ”を感じるメカニズムが人間の中にあるからなんです。

古川
それでは、ここから“恐怖”を“楽しさ”に変えるメカニズムについてお話をしていきましょうか。まずは、“緊張と緩和”ということですが…これはどういうことでしょう?

五味さん
これはですね、緊張と緩和があることで“恐怖”が“楽しさ”に変わるんですね。
例えば、お化け屋敷に入って歩いていくと物陰があって、そこに何かが潜んでいるんじゃないか、扉を開けると何かが出てくるんじゃないかとかを考えながら、おそるおそる進んでいきますよね。その状態が緊張の状態。それで、その緊張がどんどん高まっていって、どこかでお化けが現れる。その現れた瞬間が恐怖の絶頂であるのですが同時に、緊張から解放された瞬間でもあります。その緊張が一気に「緩和」された時に、楽しいという感情が起こるんです。
ポイントは、どれだけ一気に緊張を緩和させられるかどうかというところにあるんです。『いないいないばあ』という遊びがありますよね、あれをやると赤ちゃんは笑う。それと全く同じなんです。「いないいない」と言っている時は、赤ちゃんからお母さんの顔が見えずに、赤ちゃんは不安な状態です。そこから一気に手をどけて「ばあ」というと、赤ちゃんの前にはお母さんの笑顔が現れる。赤ちゃんの緊張はその時に一気に解放されて、緩和されるわけですよね。その時のポイントとして、溜めて一気に手を離しますよね。ゆっくりと「ばあ」とやっても赤ちゃんは笑わない。

古川
まあ、そうですよね(笑)。

五味さん
だから、緊張を極限まで高めて、それを一気に緩和させることがポイントですね。これは、「いないいないばあ」やお化け屋敷だけではなくて、“楽しい”という感情をもたせる多くのものがこういうメカニズムによってつくり出されていると思います。

古川
なるほど。落語もそうなんですよね?

五味さん
はい。

古川
次は「落語のオチ4分類と恐怖演出の4分類」ということですが…

五味さん
はい。これは、今はもう亡くなられている落語家の桂枝雀さんが言っていたんです。枝雀さんは落語を分析していた方で、その方が同じように「緊張を緩和」という話をされていて「笑いというものは、緊張が緩和されることによって生まれる」とおっしゃっていたんですね。

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その枝雀さんが、笑いのオチには「ドンデン」、「謎解き」、「変」、「合わせ」の4つがあると。
「ドンデン」は、最後にこうなるかなと思っていたところを、全く別のオチで終わらせること。

「謎解き」は、そのお話の中にある種の謎があって、それが最後の最後にシュッと解決されて納得するようなかたちで終わること。

「変」というのは、これはもっと脈絡のない感じで、お話の最後に全く関係ないことを言って落とすこと。

「合わせ」というのは、お客さんがこうなるだろうなと思っていた予想通りのところに収まって気持ちよく終わること。

これが、落語のオチの4つの分類です。枝雀さんのお話を聞いて、お化け屋敷の演出にも同じようなことが言えるんじゃないかと思ったんですね。

古川
恐怖の演出の場合に当てはめると、「意外」、「気づき」、「唐突」、「的中」ということですね?

五味さん
はい。これを、お化け屋敷の具体的な演出に当てはめていくと…

「意外」というのは、お客さんは常に「次はこう来るだろうな」と予想しながら体験していきますよね、その予想を裏切ることです。扉を開けたら部屋の隅に何かいるだろうなと思っていたら、全然違うところから現れるとか。

「気づき」というのは、例えばお客さんに「何かをしろ」という指令が出て、それをすることによって演出が起こることがあったとして「なるほど。これをやったからそれが起きたのね」と、何かしらの意図に感づくというものですね。

「唐突」というのは、例えば長い通路があって、これはどこからお化けが出ても不思議ではないと思っているとします。そこに、ポンッと理由もなくいきなりお化けが出てくる、これが「唐突」です。

最後の「的中」は、例えば扉を開けたら目の前に何かがいるだろうと予想して扉を開けたら、やっぱり目の前にいる。これが「的中」ですね。でも、その時はもちろん的中しているんだけど、自分が予想していたものよりも大きいとか、より怖いものであることが重要。落語の場合の「合わせ」も、的中するんだけど自分が考えていたよりも魅力的だったりする落とし方をすることで納得する、ということですね。

古川
なるほど。落語の場合には最後のオチにかけて話を進めていくと思うんですけど、お化け屋敷の場合には、これをけっこうな頻度で仕掛けていかなければいけないですよね。

それではここで、「恐怖演出4つのタイミング」についてお話をうかがいましょうか。「唐突」、「間」、「隙」、「合わせ」があるということですが…。

五味さん
「恐怖演出の4分類」とかぶる部分もあるんですが、お化け屋敷はどのタイミングで驚かすかが非常に重要なんですよ。

「合わせ」
というのは、このタイミングで動くだろうなと思った瞬間にお化けが動く、というもの。

「間」というのは、目の前に人形があって、動くのかと思ったら動かない。その間があって、突然人形が動きだす、というものです。

古川
ちょっとホッとした時に、という感じですね。

五味さん
「隙」というのは今、古川さんがおっしゃったようにホッとした時に、というのに似ていて。
例えばお化け屋敷を歩いていて、そこにお化けが現れる。でも、そんなに怖くなくて、たいしたことはないなと安心していたら、その隙をついてほんとうに怖いお化けが出てくること、とかですね。

なので、「間」と「隙」は似ているんですけど、「間」の場合は演出が起こる前なので、安心していない。でも、「隙」は現象が起こして安心させて隙をつくって、その隙をつく。似ているけど、微妙に違うんです。

それで、最後の「唐突」は、さきほどの「変」と似ていて、予想とは関係なくいきなりお化けが出てくる、というものです。この4つが恐怖演出のタイミングですね。

古川
じゃあ、この4つのタイミングと4つの演出を掛け合わせて、たくさんの恐怖シーンをつくっていくんですね。

五味さん
そうですね。まあ、それ以外にも演技やスピード、距離とかいろんなものがあるので、それを掛け合わせながらつくっていく。

古川
そういう演出は、現場で一つひとつ指導していくんですか?

五味さん
指示はしますね。でも、お芝居と違って、“ひとつの演出のかたち”がつくれるわけではないんです。例えば、お客さんはいろいろで、次から次に違う方がいらっしゃるわけですよ。その時に、このお客さんにはこのタイミング、このお客さんにはこの脅かし方という風に違うので、演出を固定化することはできないんですよね。

古川
じゃあ、一人ひとりのお客さんに対して、演出を決めているという感じですか?

五味さん
うーん、先に決めていくというか、「さっきはこういうタイミングで驚かしたけど、ちょっと早かったね。あの時、お客さんは別のことを考えていたよね」という風に、随時話をするようにしていますね。

古川
なるほど…。

それでは次に、「恐怖」を「楽しさ」に変えるメカニズムの話の続きとして、「主観と客観の往復運動」についておうかがいします。これは、具体的にはどういうことでしょうか?

五味さん
さきほど、「緊張と緩和」によって楽しさが生まれるとお話ししたんですが、それとはまた別の側面の話で、これがもしかしたら今回のテーマの一つになるんじゃないかと思います。

お化け屋敷は特殊な場所で、通常は避けたいはずの「恐怖」を体験しないと、その向こう側にある「楽しさ」が味わえないということが前提にありますが、お客さんはそのお化け屋敷と自分との距離をなるべくとりたいと思うんですね。お化け屋敷に入る前は、ほんとうにお化けがいるわけじゃないからと冷静に考えて中に入っていくんですけど、いざ足を踏み入れると想像力が働いて、闇があったり道がくねっていたりすると「あそこに何かいるんじゃないか、潜んでいるんじゃないか」とどんどん怖くなっていくわけです。そうすると、さっきまでは大丈夫だと思っていた自分が、そうではなくなってくる。客観的だった自分が、どんどん視野が狭くなっていって主観的になっていくんです。でも、お客さんは「恐怖」をできるだけ避けたいので、どうやったら怖くなくなるかと常に考えているんですね。

古川
自ら選んでお化け屋敷に入ってきているのに、怖がりたくないと(笑)。

五味さん
そう。みなさんもそうだと思うんですけど、どうやったら悲鳴をあげずに済むかなと考えているわけです。でも、お化け屋敷は本質的に怖がるところですから、怖い体験をしないということは、楽しい体験をしないということ。そこに特殊性があるんですよね。

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それで、常にお客さんはどうやったら怖がらずに済むか考えてお化け屋敷を歩いていきます。その方法の1つが、“客観的な視点”をもつこと。「これはつくりものなんだから怖くない」と常に冷静に考えることができれば怖くないので、“客観的”になりたいと思うんですよ。でも、想像力が働いてしまって、何でもない人形が恐ろしいものに見えてきてしまう。そうやってお化け屋敷の中を歩いていくうちにどんどん“主観”の方が強くなっていって、目の前にお化けが現れた時に、そこで一気に恐怖が緩和して、客観的な自分に引き戻されるわけですね。そうなった時に、客観的な自分から見れば驚いたことがばかばかしくなります。

古川
なんで、こんなものに驚いちゃったんだろうと(笑)。

五味さん
この主観から客観に引き戻されるという現象が楽しいんですよ。漫才もこれと同じような構造を持っていて、すごくシンプルに“ボケという主観”と“ツッコミという客観”がいて、ボケ役の人が思い込みみたいな話をずっと喋る。でもそれをツッコミ役の人が、「お前何を言っているんだよ」という風に客観的につっこむわけです。そうしてツッコミが客観の方に戻してくれた時に、笑いが起こる。まさに“主観と客観の往復運動”というものが漫才の構造ですから。“ボケ”というのは、恐怖の対象なんですよ。漫才の中で出てくるような人が実際に隣にいたとしたら怖いですよね。

古川
はいはい(笑)。それは怖いですね。

五味さん
ですよね。でも、それはステージの上にいるのを聞くから怖くないわけで、そうなるとお化け屋敷と漫才は遠くないのかなと。

古川
言われてみればそうだなという感じですね。僕も、お化け屋敷に入る前までは怖がらないぞと思っているんだけど、いざ中に入るとびっくりしてしまう。その時に、楽しさがこみ上げてきますよね。

五味さん
それは自分だけの話ではなくて、一緒にお化け屋敷にいった相手が「わあ!」と悲鳴をあげて腰を抜かしたりすると、「何をやっているんだよ」とかいって笑うのも同じことといえますね。

 

お化け屋敷を変えた、その手法

古川
ここからは、お化け屋敷を変革していった具体的な手法についてうかがいます。

今回、事前に五味さんと打ち合わせをする中で「プロデュースという観点で考えたことはないけど、あえてプロデュース目線で言うなら…」ということで、「演出」、「制作」、「宣伝」、「運営」と挙げていただきました。それぞれ、どういうことをされているんですか?

五味さん
「演出」は分かりやすいですよね、どうやったらお客さんが怖がるかを考えて演出をする、クリエイティブの部分になります。

「制作」というのは、お化け屋敷をつくるのにはもちろん僕一人ではできないので、造形のスタッフや音楽のスタッフのみなさんとうまくコミュニケーションをとって、演出の側面をより具体的に伝えるんですが、そうすると僕が思っているもの以上のものとして返ってくる。そういうものを調整したり、管理したりする部分です。

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「宣伝」は、文字通りPRですね。

「運営」は、キャストとかスタッフを使ってお化け屋敷を運営していくというところなんです。
が、実は従来のお化け屋敷は、一人の人間が「運営」と「演出」の両方を担当することはまずなかったんです。そうなると、お化け屋敷をつくる人はつくって運営側に渡して、運営側がそれを使ってどうお客さんを怖がらすかということを考えていくことになります。昔はこうやって「運営」と「演出」が分離されていたんですよね。今もそういう状態は、お化け屋敷に限らずいろんなところで起きています。そうなると、「こんなお化け屋敷をつくりたい」と制作側から企画を出した時に、その人が運営のノウハウを持っていないと運営側から「(オペレーションのことを考えると)それは、できないよ」と簡単に却下されてしまう。逆に運営側しか知らないと「それは素人の考え(アイデア)で、実際には実現できないよ」とこちらも却下されてしまう。
なので、僕のプロデュースするお化け屋敷が普通のお化け屋敷とは違う点がそこにあるんじゃないかと思いますね。

古川
さきほどのお話に戻りますが、五味さんはお化け役の人に指導することを「演出でもなくお芝居でもない」とおっしゃっていました。直接お客さんの反応を見て指導されているということは、長い時間現場にいるということですよね。エンターテイメントは、仕立てて終わり、というものも多い中で、そこも一つの違いかなと思ったのですが?

五味さん
そうですね、特にお化け屋敷はつくるのに時間もかかるし専門的だし、けっこう定型化しやすいエンターテイメントなんですよね。「こんなことを、お客さんはしたがらないよ」とか、「こんなことをしたら、壊れちゃうよ」とかいうことをわりと言いがちなんです。けっこうシビアな世界で、実際にものが壊れたりしがちなので、それに対する用心というか…。

古川
お金もかかりますしね。

五味さん
そうそう。

古川
ここからは具体的に、お化け屋敷を変えていった手法についてお話をうかがいましょう。

キャストの復活」ということですが、これは単純にお客さんを驚かすスタッフが復活したということでしょうか?

五味さん
そうですね。1992年当時のお化け屋敷には、キャストがいるお化け屋敷はほとんどなかったんですよ。当時、バブルは終わっているんですけど、急に世の中が不景気になったり、お祭り気分が急速に消えていったりしたかというとそうではなくて、多分、バブルが弾けたという実感がそんなにない頃なんですよね。なので、まだまだバブルの余韻でいろんなエンターテイメント施設がつくられていて、新しいテクノロジーを駆使した最先端のエンターテイメントが生まれ、メディアもそれを取り上げていたんです。

そういう中で、僕は全くバブルの波に乗っていないお芝居の世界にいたので、そういう最先端のテクノロジーにはあまり興味がありませんでした。当時、後楽園ゆうえんちのお化け屋敷はキャストのいる数少ないお化け屋敷だったんですね。そのお化け屋敷を体験した時に何が一番怖かったかというと、そういった最先端のテクノロジーではなくて、井戸からキャストのお化けが出てくるという演出だったんです。それが、何度見ても怖くて。井戸から出てくるだけで怖いんだから、あっちからもこっちからもお化けが出てきたらさぞ怖いだろうとその時思いました。それで、さきほども話したように最初に手掛けたお化け屋敷『麿赤兒のパノラマ怪奇館』では、麿さんの主宰する大駱駝艦のダンサーに白塗りをしてもらって暗闇の中に潜んでもらいました。だって、ただでさえ怖い白塗りのダンサーが闇の中から飛び出てきたらすごく怖いじゃないですか(笑)。

そんな素朴な考えからスタートしたんですけど、けっこうそれがお化け屋敷の本質の部分で、“キャストがいる”ということが他にはないエンターテイメントの魅力をつくっているんです。それは、時代が変わって今のようなデジタルな時代になればなるほど、時代と逆行してアナログなものが求められるのかもしれません。だからこそ、こういう時代であってもお化け屋敷というものが大勢の方に楽しんでもらっている理由の一つだし、多分この先も変わらないだろうなと。

古川
なるほど。五味さんのお話を聞いていると、他のエンターテイメントでも新しいものを何でも取り入れればいいというわけではなくて、アナログであろうが新しいものであろうが、その分野に合ったものを取り入れるべきだという気がしますね。

五味さん
合ったものというか、本質に合っているものという感じかもしれないですね。「お化け屋敷も、新しい技術を取り入れたらどうですか?」という提案も、よく受けるんですけどね…。

古川
何か新しいチャレンジもされているんですか?

五味さん
チャレンジしていますね。でも、それはお化け屋敷の本質に合わないからやってもしょうがないなというものが多いですね…。(汗)

古川
ここからは、今回の課題のテーマにもなった『赤ん坊地獄』についてお話していきましょう。今回は、その時に使った人形も持ってきてくださったんですよね(笑)?

五味さん
はい(笑)。赤ん坊地獄は、この赤ん坊の人形を抱いて歩くお化け屋敷で、今までになかった2つの要素を取り入れたお化け屋敷です。

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その一つは、“ストーリー”ですね。
それまでのお化け屋敷は、ストーリーがそんなに重要視されていませんでした。今でもありますよね、お岩さんがいたり、ろくろ首がいたり、その隣にはドラキュラがいたり…と脈絡もなく怖い演出を並べているようなお化け屋敷が。でも、そうではなくて一つのストーリーをつくりましょうと。これは、僕がもともと演劇をやっていたところから素直に発想した部分ではありますが、今考えると当時はあまりなかったものだったんだなと思いますね。

もうひとつが“ミッション”ですね。
お化け屋敷でお客さんを見ていると、みんな怖いものがあると遠ざかろうとするんですよ。その近くを通ってほしいのに、避けて通られてしまう。そうなると、“楽しさ”を十分に味わってもらえないじゃないですか。どうにかその怖いものにお客さんを近づけないといけないので、お客さんにそのための指令を与えたい。そう考えて思いついたのが、入り口でこの赤ん坊を渡して、「出口にいるお母さんまで届けてくれ」というミッションでした。

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そうなると、この赤ちゃんを狙ってお化けがお客さんに襲いかかる。それまでのお化け屋敷では、自分は大勢いる中のひとりという意識だったんですけど、『赤ん坊地獄』ではお化けが自分をめがけて襲ってくる。そこにまた、赤ちゃんを守らなければいけないという役割も生まれてくる。そうすると、物語と自分との距離がどんどん縮まってくるんです。なので、怖いものを見て歩くという体験ではなく、自分がその物語の重要な登場人物であるという意識でお化け屋敷を体感するようになる。全く違うものになるんですね。

古川
それが、「展示型」から「劇場型」へということですね。

そういう風に変えてきたことで、お化け屋敷がエンターテイメントとして飛躍してきているというお話についてですが、これは、例えば学校の学園祭とかでもつくろうと思えばつくれるけど、そういうことではなく、お化け屋敷がエンターテイメントとして完成されたものになりつつあるということでしょうか?

五味さん
そうですね、“エンターテイメント”というものをどう定義するかにもよりますが、お化け屋敷って、誰でもつくれるんです。僕も小学校の時に、自分の家でお化け屋敷をつくりました(笑)。学園祭とかでもそういうのをつくっている人はいるし、どれもお化け屋敷です。
でも、エンターテイメントというものは「こういうことをしたらお客さんは驚くな」とか「体験したお客さんはこういう気持ちになるだろうな」ということを仕掛けながらつくっていくもの。それを体験したお客さんがその通りになるか、もしくはそれを超えるかたちで感情を動かされるとか、そんな作用があるものだと思うんですね。単純に部屋を暗くして怖いものをおけば、それはそれで怖いですけど、エンターテイメントと呼ぶにはあまりにも乱暴ですよね。
私たちは、お客さんの心理の底まで入り込んで戦略を練っていく。それで、さきほどもお話したように、最終的には怖いだけではなく楽しいというところにまで持っていく、と。お化け屋敷というものは昔から連綿とあったにもかかわらず、そこを意識しているお化け屋敷が少なかった。そこを意識的にやっていくことで、さまざまなエンターテイメントがあるこの時代に、楽しめるエンターテイメントになったと思うし、残り続けていくためにはそこを意識していかなければいけないと思います。

古川
お化け屋敷は、自分のからだを使って「恐怖」を体験するという特殊なエンターテイメントというお話がありましたが、なぜ今そういうものが求められているんでしょう?

五味さん
お化け屋敷のようなものは、「負荷をかけるエンターテイメント」と言われています。一般的なエンターテイメントの場合は、いかにお客さんの負担を軽くするかということに心を砕くんですが、お化け屋敷の場合はいかにお客さんに負荷をかけるか、ストレスを与えるかと考える。それに近いものといえば、リアル脱出ゲーム。あれは、“お客さんに解けない謎”というストレスを与えますよね。そういう負荷をかけるエンターテイメントは特殊です。でも、負荷から解放された時のよろこびは他のエンターテイメントでは得られないんですよ。

さらに、今の世の中はどんどん身体性を失っている時代です。エンターテイメントもそうで、わざわざ暑い中電車に乗ってお化け屋敷に行くよりも、冷房の効いた家で映画でも見ていた方が快適じゃないですか。そんな快適なエンターテイメントは世の中に山ほどあるんです、そんな中でお化け屋敷はわざわざストレスをかけてもらいにいく。

古川
まず、体験するまでにハードルがありますよね。

五味さん
そうそう(笑)。でも、お化け屋敷に行けば家では体験できないようなことが体験できる。フェスなんかもそうですよね、きちんとしたベッドではなくて環境の悪いところで寝起きしたりする。でも、それが重要で、映画なら何もしなくても物語は進んでやがてエンドロールを迎えるけど、お化け屋敷の場合は、自分で歩いて扉を開けていかないと最後までたどりつけない。その肉体を使うことで得られる楽しみが、逆に今の時代には求められているんだと思います。

古川
今の時代の流れとしても、体験型のものが流行ってきているような気がしますね。家にいればネットを使って何でも手に入れられるけど、逆に出かけるというか。“モノ”から“コト”へということもよくいわれていますよね。

五味さん
すごく近いと思います。負荷を与えるわけですから(笑)。だからといって、何でもかんでも負荷をかければいいというわけではないではないので。

古川
そうですよね(笑)。お化け屋敷の場合は、行くまでにもハードルがあるし、行った先でも苦しめられるという2段階の壁がありますもんね。でも、あえて苦しめられに行く人が増えてきているということですね(笑)。

 

特殊なエンターテイメントのPR術

古川
そんな特殊なエンターテイメントをプロデュースされる中で、大切だなと思うのが伝え方だと思うんですね。お化け屋敷って、誰もが行ったことのあるエンターテイメントの一つでありながら、普段生活している中で頻繁に入ってくる情報ではないじゃないですか。なので、その辺りのPR術をうかがいたいなと思います。

まず、「テーマ、設定を絞り込み、できるだけ無駄な要素を削ぎ落とす」ということなんですが、これは具体的にはどういうことでしょうか?

五味さん
お化け屋敷自体がブラックボックスなので、ひと言で「〇〇なお化け屋敷です」と言えれば“勝ち”なんですね。
なので、ひと言で言えるようなテーマ設定が大事です。そのテーマを宣伝でいかにPRしていけるかということに神経を注いでいく。あんまり余計なことを考える必要はないです。問題は、いかにシンプルに怖い設定をつくりだすことができるか。これはPRだけの話というよりも、企画とか制作にも深く関わってくる話ですね。

古川
五味さんがプロデュースされたお化け屋敷の中で、このお話がまさに体現化されているなと思ったのが、素足で歩くお化け屋敷として企画された『足刈りの家』。そのひと言だけで怖さが伝わってくる。だって、絶対にお化け屋敷の中を素足で歩きたくないですよね(笑)!

五味さん
これは、ポスターのビジュアルにキャッチコピーがドンッと書いてありますけど、「くつを ぬいで あるく」と書いているだけで、すでにキャッチコピーですらない、説明しているだけ(笑)!でも、いいんです、これで。それで全てが伝わるんです。

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「靴を脱いだら怖いよ」ということを言う必要はまるっきりないので。シンプルに考えて、伝えることができたので、そういう意味では一番成功した例かなと思いますね。

古川
「多分、ひやっとするんだろうな」とか、勝手に想像が膨らんでいきますよね。このポスターのビジュアルは、裸足で歩く人の足元に女の人の顔があるというわかりやすいものですね。それも、重要なポイントの一つなんですよね?

五味さん
そうですね。あとは、僕のお化け屋敷のキービジュアルの特徴はけっこう派手なことですね。それは、怖いことも大事なんですけど、どこかで「このお化け屋敷は怖いだけじゃないですよ」という信号を出したいなと常に思っています。だから派手なビジュアルが多いんです。真っ暗なところに、光に照らされた怖い女の顔が浮かび上がるというようなビジュアルとかはほとんどつくりません

古川
それが、「怖さと楽しさを訴える」というPR術につながるんですね?

五味さん
はい。今言ったように、「僕のお化け屋敷は怖いだけではなくてお祭りみたいなものだよ」ということを訴えたいと思っていますね。

古川
あとは、「WEBを使って口コミをより熟成させる」ということですが、WEBを使ったPRをされているんですか?

五味さん
そうですね、WEBは一番相性がいいんです。お化け屋敷って怖いから、みんな内容を知りたがるじゃないですか。どんな内容なのか、どんな風に怖いのかを知りたがっている。でも、そこで僕がいくら「怖いですよ」と言ったとしても、運営側からの言葉は信用されない。なので、実際に体験した人の声が一番知りたいんですよ。だから、SNSとかで情報を集めて、来てくれるということが多いですか

古川
何か実際に、仕掛けられたことはあるんですか?

五味さん
SNSではないんですけど、『ゴーストカム』といって、ネット上で24時間リアルタイムでお化け屋敷の中を見られるシステムをやりました。昼間はお客さんが楽しんでいる姿を見られて、夜は誰もいないお化け屋敷の中を見られると(笑)。

古川
誰もいないお化け屋敷も怖いですね…。ずっと見ていたら、何か起こるんじゃないかと思ってしまいますね(笑)。

五味さん
そうそう、起こるかもしれない。でも、何か起こったとして一番怖いのは僕ですからね(笑)。

古川
そうですよね、現場に入り浸っているわけですからね(笑)。

五味さん
あとは、お客さんがお化け屋敷に入った時の自分の写真をネット上で手に入れることができるサービスもやりましたね。それで、拡散するなら拡散してくださいと。

古川
なるほど。それでシェアしやすくすることで、口コミを広めるわけですね。

五味さん
驚いている自分って、けっこうマヌケじゃないですか。でも、それをさらしたいという欲望も人ってあるんですよね。

あとは、ネットではないんですが、『ゴーストカム』の映像をお化け屋敷の外で見られるようにして、そこにあるボタンを押すと中の仕掛けのひとつが動く、ということもやりました。中の人が歩いているのを見ながら、外の人が仕掛けを動かすことができるんです。みんな客観的に見ているので、大笑いですよ。

あとは、『闇の歯科病棟』というお化け屋敷の時には、開催期間に合わせて主人公の『桐夫のブログ』というものをやりました。

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このお化け屋敷は、桐夫という歯医者さんがいるんですが、霊が取り憑いて知らない間に殺人を犯していくというストーリーなんですね。その桐夫の心の葛藤みたいなものをブログでつづって、毎日ネット上で更新したんです。この時、現実の世界では選挙があったり、台風が来たりしていたんですけど、ブログでも選挙にかかわることを呟いたりして、実際に現実世界で起こっていることと架空の世界で起こっていることをつないでいったんです。それで、そのブログを見ている人からメッセージが来て、そのメッセージを見た霊が怒って「そんなメッセージを書いた奴なんて祟ってやる。お前らのところに今夜行くからな」というメッセージを返したり。それで、その祟りを逃れるためにはお化け屋敷のどこかにあるお守りを取りにいかないといけなくて…。

古川
それ、ほんとうに怖いですね!

五味さん
それで、最終的には桐夫が亡くなるんですね。桐夫が亡くなった時にお葬式をやるので、献花の代わりにメッセージを桐夫に送ってくださいと。そうすると、お化け屋敷の中にある携帯電話が着信して、画面が光る。それをお客さんは『ゴーストカム』で見ているんですけど、画面が光ることで初めて目の前に置いてある遺影が見えるというような仕掛けでした。

古川
なるほど〜。めちゃめちゃ仕掛けが凝っていますね…!(笑)。

 

お化け屋敷から考えるプロデュース術

古川
それではここで、お化け屋敷から考えるプロデュース術についてお話していただきます。

まず一つ目が、「要素が少ない分だけ、本質を掴みやすい」ということですが、これはどういうことでしょう?

五味さん
お化け屋敷は、「恐怖」というある一つを深く掘り込んでいくようなエンターテイメントなんですよね。「恐怖」のことしか考えないわけですから、他の要素は現れないのかなと思っていたんですけど、意外にエンターテイメント全体が見えてくるという部分があって。どういうことかというと、要素が少ないのであれもこれも考えずに済み、“恐怖”を“楽しさ”に変えるということは何なのか、だけを考え続けていくと、お化け屋敷はこういう構造があるから、お客さんが楽しんでくれる。その構造は、ある意味ほとんどのエンターテイメントに置き換えることができるとわかったんです。

古川
次のポイントである、「オタク化せずに普遍性を目指す」というところに通じますね。

五味さん
はい。ニッチなところを掘っていくと、オタク化しがちな傾向があるので、一般の人たちにとってそれがどういう楽しみになるのか、というところに常に視点を置いて考えていくということも、重要なポイントだったりしますね。そういったことを意識していくことで、エンターテイメントの本質に近づくことができるんじゃないかなと思っています。

古川
お化け屋敷だからといって恐怖だけを追求するのではなくて、楽しいものに変えていくとか、他のエンターテイメントやプロデュースにも通ずるところがありますよね。

あとは、「常にお客さんは客観的に判断しようとする」というところですが…。

五味さん
はい。これはさきほどお話したもので、お客さんは常に自分が客観的な立場になりたいと考えているということですね。「お化け屋敷は特殊なエンターテイメントです」と言える一方で、これだけ世の中にエンターテイメントが溢れている時代には、お客さんが一度批評家的な立場に立つわけです。いろいろな情報を得て、“批評”した上で、見にいく、見にいかないを決める。その昔、今ほどエンターテイメントが盛んではなかった時代は、もっと素朴に「お金を払ったら楽しもう」という立場で臨んでいたと思うんですけど、今は行く前にお金を払う価値があるのかを判断してからその対象に向き合う、ということになります。

その側面から見ると、お化け屋敷は特殊なエンターテイメントというお話をしましたが、実は、今の時代では、他のエンターテイメントにも通じる要素をもっているんじゃないかと思うんですよ。

古川
逆にプロデュースする立場から考えると、単純に楽しもうと思っている人だけが参加するのではなくて、冷静におもしろいか、おもしろくないかを見極めようというお客さんもいるというわけですよね。

五味さん
そうですね。そういう人がほとんどだと思って臨んだ方がいいくらい。

古川
そういう冷静な人を、興奮の状態に持っていくことが重要ということですよね。

五味さん
そうは言いながらも、当然楽しみたいという感情は誰でも持っているわけです。なので、その人にかかっている足枷を外してあげる必要があるんです。それが、「興奮に飛び込む理由(信頼)をつくる」ということですね。
エンターテイメントに飛び込むだけの理由づけを戦略的に行っていく必要があるんじゃないかなと思っていて。だから、「あなたが興奮してもいいものを、私は提供しますよ」ときっちり示してあげないといけない。そうすると、お客さんも「わかりました。あなたに身をゆだねましょう」ということで、思いっきり楽しんでくれる。
お化け屋敷の場合は、それをより強くやらないといけないのです、参加するためのハードルがたくさんありますからね。参加してくれた時、最初はお客さんが主導権を持っているわけです。それをどこかのタイミングでお化け屋敷側に譲るわけですよ。そうしないと、お客さんを楽しませることができない。そのために、理由、信頼が必要になってきて、その作業をしてあげることによって初めて、お客さんは冷静から興奮の状態へ踏み込んでくれる。それはお化け屋敷だけではなくて、あらゆるエンターテイメントで同様のことが行われているので、さまざまなところに汎用性を持つ話じゃないかなと思います。

古川
多分、エンターテイメントだけではなくて、どこかレストランでご飯を食べる時に、ちょっとやそっとの味では「おいしい」なんて言わないから、というようなスタンスでいたんだけど、いざ食べてみるとすごくおいしくて、この素材はどこどこ産で、とかいうストーリーも聞いちゃうと、そこまでやっているんだったら認めようかな、みたいな…。

五味さん
そうそう。やっぱり、消費者の主導権がどんどん強くなってきているんですね。でも、そういうものだと思ってエンターテイメントも食事も提供していかないといけない時代だと思います。

古川::それでは最後に、五味さんは今後どんなことに取り組まれていくのかを教えていただけますか?

五味さん
僕は、そんなにビジョンを持たないんですよ。けっこう流れるままに来ているので。でも、今やっていることをもう少し拡大していきたいなと思っています。

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その一つが海外展開です。一昨年前にジャカルタで『恐怖のかくれんぼ屋敷』というお化け屋敷をやったんですけど、そういうのをもっとやっていきたいなと。その一方で、もっと日本的なものをやっていきたいなという思いもあるんです。日本には日本の恐怖というものがあって、そういったものをもうちょっと掘り込んでいきたいなと。そう思うようになったのは、海外に目が向いたことがきっかけです。海外のことを知ると、今まで知らなかったような日本のことにも気づくようになって。もっと海外のことを知れば、日本人のストーリーに対する思いとか宗教観とかが見えてくるんじゃないかなと思います。

古川
内と外で活躍されていくということですね。五味さん、本日はありがとうございました!

 

こうして、五味さんと古川のトークセッションが終了。誰もが一度は行ったことがあるものの、あまり語られてこなかったお化け屋敷の裏側の世界に一歩足を踏み入れることができたのではないでしょうか?また、これまでの4人のプロデューサーの方のお話や普段のお仕事にも通ずるものがあったのではないでしょうか?

『赤ん坊地獄』のお話の時には、実際にお化け屋敷でお客さんに渡していた赤ん坊の人形を抱きながらお話をしてくださった五味さん。五味さんの興味深いお話やおもしろいお話のおかげで、終始笑いの絶えない勉強会となりました。普段はなかなか聞くことのできない貴重お話をありがとうございました。

次回、第5回目ゲストは、数々のプラットフォームを手掛けてきた家入一真さん。その様子も、お伝えする予定ですので、次回もお楽しみに!