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SENSORS IGNITION 2016孫泰蔵×伊地知天×麻生要一 トークセッション

2016/03/24

2月26日(金)『Media Technology Lab.(以下、MTL)』が協賛した『SENSORS IGNITION 2016』が開催されました。

主催した『SENSORS』は、テクノロジー×エンターテインメントをコンセプトとするプロジェクト。テクノロジーがもたらすエンターテインメント領域のイノベーションを発掘・紹介するだけでなく、コラボレーションを促すことで進化させます。

「発火装置=IGNITION」と銘打たれた本イベントは、まさにコンセプトを体現したといえる取り組み。WEB・TV・リアルイベントを連携させることで、未来を変えるイノベーションに火をつけました。

会場に集ったのは、クリエイティブや地域活性、スポーツ、人工知能、オープンイノベーションなどの領域で活躍される方々。トークセッションや体験型展示を通じて、未来への期待が膨らむ刺激的な場となりました。

本レポートは、『SENSORS IGNITION 2016』前編とし、MTLweb編集部が注目したトークセッションをお届けします。

トークセッション
「大企業×スタートアップ オープンイノベーションのインパクト」

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登壇者
孫泰蔵氏 Mistletoe株式会社 代表取締役社長兼CEO
伊地知天氏 Creww株式会社 Founder CEO
麻生要一氏 株式会社リクルートホールディングス Media Technology Lab.室長

モデレーター
佐々木紀彦氏 株式会社ニューズピックス 取締役 NewsPicks編集長

3名のイノベーターを招いて行われたトークセッション。佐々木氏をモデレーターに、自己紹介からスタートしました。

「起業家の果敢な挑戦をさまざまな形でサポートするMistletoe株式会社の事業に集中し、日本におけるエコシステムをつくりたい」というスタンス表明をしたのは孫氏。「Mistletoeとはヤドリギの意。ほかの植物に寄生するイメージがありますが、実は森の生態系を拡張させる重要なミッションを担っているんです。このヤドリギのように、日本のスタートアップを育成するエコシステムを豊かな森のように拡張し、世の中に対するインパクトにつなげたい」と述べました。具体的な取り組みとしては、スタートアップと共同で行うプロダクトの研究開発や既存のスタートアップへの資金援助に加え、いろいろな人がつながるイベントへの協賛やベンチャーキャピタルへの投資なども行っているとのことでした。
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これを受けて佐々木氏から「5年後、10年後にスケールしそうな事業は?」との質問があり、孫氏は「現時点でオープンにできるものは少ないのですが、たとえばクルマメーカーからスピンオフしたエンジニアとともに進めている、水陸両用の電気自動車の開発があります。雨季に道路が水浸しになる途上国を皮切りに世界中に浸透させたい」と述べました。

次に伊地知氏。4度目の起業になるCrewwを通じて、日本経済が抱える課題を新しいアプローチで解決したい。その手法として、大手企業の経営資源をスタートアップにつなぐという取り組みを行っていると述べました。ここ数年、アメリカやヨーロッパで活発になっているものを、2012年頃から自社で行ってきたといいます。「スタートアップにとっては、大手の経営資源を使うことでスケールまでの時間を短縮できますし、大手企業にとっては、自社の経営資源の使い方を変えることで別の価値を創造できるメリットがある。両社の利害が一致するんです。ただ、つなぎ方が難しい。文化や価値観が違うので、自然発生しづらい。相性を見極め、実利につながる座組を行うことが肝心」と語りました。
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これに対し「印象的だった座組は?」と佐々木氏から質問が。伊地知氏は「新聞社とシェアリングエコノミーに取り組む会社をつなぎました。シェアリングエコノミー会社に代わり、全国各所に配達を行う新聞社が、余剰スペースを貸し出したいというオーナーさんを見つける役割を担います。ビジネスへの展望としては、駐車場といったニーズが顕在化しているものから、民泊や宅配、見守りサービスなどにも応用可能で、大きな実利が見込めます」と語りました。

そして麻生氏。自ら社内ベンチャーで立ち上げたニジボックスのCEOにはじまり、リクルートの新規事業を育成するMTL、オープンイノベーションを誘発するTECH LAB PAAKの責任者を兼務する現在までのキャリアを「新規事業ばかりやってきました」と表現したうえで、活動の具体的な紹介として「 MTLでは製造系スタートアップを支援する事業や三重県地域の交通課題をサポートする事業まで、多様な新規事業を15ほど育成しています。TECH LAB PAAKでは、リクルートが応援したい起業家に対し無料で拠点を貸し出し、人との出会い、有益な機会を提供しています」と語りました。そして本セッションにも通じる活動として、2006年から運営している日本最大のハッカソンMashup Awards(Web開発者が自ら開発したサイトやスマートフォンアプリ等を通して技術、デザイン、アイデアを競い合うコンテスト)や、三井不動産との共同プロジェクト柏の葉ッカソン(千葉県柏市を舞台に、「RECRUIT VENTURES」の新規事業開発制度のしくみをとりいれ、オープンイノベーションで街の課題を解決するための提案や検証を行う新しい取り組み)、塩尻市の依頼のもと、民間企業が政策に提案をする取り組みなどオープンイノベーションの実績を紹介しました。
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自己紹介が終わったところで、最初のお題。

オープンイノベーションの潮流とは?

大企業×スタートアップという言葉を耳にする機会も増えてきたけれど、実際はどれだけ行われているのか。まだまだなのか、一般的に知られていないだけで活発に行われているのか。現場に身を置く立場として見解を伺いたいと佐々木氏。

これに対し、昨年から今年がオープンイノベーション元年ではないか?と発言したのは、麻生氏。「先に述べたMashup Awardsは、10年前にくらべて進化しました。当時はGoogleマップになにかを組み合わせるといったアイデアがエントリーの9割を占めていたのに対し、いまは情報技術の組み合わせだけでなく、そこに自分の知恵を加えたものが大半です」と述べました。さらに、コンフィデンシャルな流れから、新しい技術をどんどんオープンにし、使えるものをシェアしていこうという気運に変わってきているとも。

伊地知氏も麻生氏の見解に同意し、「創業時はマネタイズスキームを発表したら周囲から大ブーイングでした。それでもアメリカの先行事例から得た確信で突き進んだのですが、最近では風当たりが変わってきたのを感じます。安倍政権の成長戦略を受けて、銀行や監査法人が本気で取り組んでくれたのが大きいと思っています。とくに金融周りはフィンテックのおかげで潮目が変わり、成熟してきたと感じています」と重ねました。

これに対し、出自の違いから異なる見解を示したのが孫氏。「インターネットの世界に関して言えば、オープンイノベーションはいまに始まったことではありません。オープンソースはオープンイノベーションそのもので、インターネットが世界的に普及したのもこの前提があったからこそ」と語りました。さらに最近の取り組みとして「Google Glassが象徴的。売り物にも開発キットにもなっていない状態でリリースし、みんなでつくろうという流れ。それとアメリカの実業家、イーロン・マスク氏が推進したハイパーループも最たるもの。サンフランシスコとロサンゼルスを結ぶカリフォルニア高速鉄道を作る国の計画に対し、時間と予算がかかりすぎるとの見解を示し、自身が経営するスペースX社とテスラモーターズ社の従業員からアイデアを募り、もっと効率的で低コストの計画で成果をあげつつあります」と述べました。そして、突然ハッとした表情を浮かべた孫氏。冒頭の自己紹介に対し「コンフィデンシャルで申し訳なかった。ダメですね、今後このような機会をいただいたら、手がけている事業をぜんぶ開示するって決めました。資料もサイトからダウンロードできるようにします」と反省してみせ、会場の笑いを誘いました。

そして次のお題が、

大企業×スタートアップを阻むハードルとは。

大企業とスタートアップの共創に大きなポテンシャルがあることは誰もが予測しているけれど、推進していくうえでハードルも大きいのでは?と問いかける佐々木氏。

これに大きく頷いたのが伊地知氏。「とても大きなハードルがありますね。文化や価値観に大きな隔たりがあるなか、大企業が自社とフィットするスタートアップをいかに見つけるか。そして、どうコミュニケーションするか。意思決定をくだした経営層から実際に共創する現場にどうやってバトンを受け渡すか。うまくいかずに頓挫するプロジェクトが多くあります」と、60回ほどのプロジェクトを通して座組をしてきた実体験から語りました。さらにハードルを超える具体策として「検証するためのスモールテストを設定し、しっかり検証すること」を挙げました。検証されきちんと行うことができれば、無駄な時間や予算を投じることなく次に向かう判断がくだせるとのことでした。

ここで佐々木氏から、リクルートに対する疑問があがりました。大手企業でありながらスタートアップとの共創を次々と実行しているが、それが実現できるのはなぜか。理由を尋ねました。

これに対し麻生氏は「リクルートは自社を大企業と思っていない。スピリットはスタートアップ」と回答しました。その一方で課題もあるとし、TECH LAB PAAKで直面しているハードルに触れました。1年間で160組のスタートアップと接点をもったけれど、けっきょく資金面での支援しかできなかった。今後はもっと自社のアセットと接続したいという意向があるとし、そのためにはポテンシャルを言語化できない状態で社内の合意を得ないといけない。可能性を感じるので推進しましょう、では企業は意思決定ができない。経営層が納得できるように、丁寧な説明を厭わない姿勢が必要だと語りました。

これに対し孫氏は「結局人なんですよね。大手企業だから、スタートアップだから、ではなく、麻生さんみたいな人がいるかどうか。アントレプレナーシップだけでなく、社内で推進するイントレプレナーシップも必要ということです」と語りました。

そして、次のお題。

この先、オープンイノベーションが活発になる領域とは。

孫氏は「これからはインフォメーションやコミュニケーションテクノロジーが世界の中心になるでしょう」と見解を示し、その潮流において日本が果たす役割が大きくなると予見しました。理由としては、長年に渡り蓄積してきた人材、技術、伝統がものをいうとのこと。その一方で注目の分野として挙げたのが、再生医療などの先端医療領域。薬事法が改正され、日本は新薬を世に出すまでのプロセスが劇的に短縮された。これにより、世界中の製薬会社が本社を日本に移している現状が追い風になるといいます。孫氏もこの分野にプログラマとエンジニアをコネクトし、イノベーションを加速化させたいと語りました。

孫氏の話に対し、未来に明るい兆しを感じると述べた佐々木氏は、今後活発になる領域でオープンイノベーションを推進するにはどのような人材が必要と思われますか、と質問を重ねました。端的に「麻生氏みたいな人」と答えた孫氏。これに大きく頷いた伊地知氏がさらに「泰蔵さんとも話したことがありますが、企業の内側から変革を起こすイントレプレナーが必要だということを痛感しています。どの企業にもパッションを持った人がいる。機会があれば、イントレプレナーは確実に覚醒します。スタートアップの価値観に触れることで、オープンイノベーションを推進する力が芽生える。相性のいい人といかに出会うか、それが重要」と語りました。

そしてさらに、泰蔵氏からも質問が。「リクルートという大企業にいながら、麻生氏はなぜ好き勝手にできる?」。これに対し麻生氏は「9割9歩、リクルートの風土によるものです。他社と比較し、圧倒的に自由です。残りの1%で、自分のやっていることをリクルートの価値に変換して伝え、社内の合意を得ています」と話しました。これを受けた3名からは「その1%のティップスが知りたい」「NewsPicksで連載してもらいましょう」といった声があがり、麻生氏からは「口頭で伝えても経営層は納得しないから、500枚くらいの企画書を書けとアドバイスされたことがあります」といった回答がありましたが、残念ながらここでタイムアップ。より具体的な手法に言及するに至らずセッション終了の時間となりました。しかし、今後も挑戦を続け、多くの実績を積みたいという麻生氏のこと、リアルな体験に下支えされたティップスをシェアできる日も近いことと思います。今後のMTLからの発信にご期待下さい。
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MTLweb編集後記
『SENSORS IGNITION 2016』レポート前編としてお届けした「大企業×スタートアップ オープンイノベーションのインパクト」。オープンイノベーションのリアルを知ることができた貴重なセッションとなりました。続く、イベントレポート後編では、「ハードウェアスタートアップのつくりかた」をお届け致します。

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