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ハードウェアスタートアップのつくりかた@SENSORS IGNITION 2016

2016/03/25

2月26日(金)テクノロジー×エンターテインメントをコンセプトとするプロジェクト『SENSORS』が、WEB・TV・リアルイベントを連携させた『SENSORS IGNITION 2016』を開催。未来を変えるイノベーションに火をつけるというテーマに共感した『Media Technology Lab.』が協賛しました。

イベントレポートの後編となる本編は、MTLweb編集部が注目したセッション「ハードウェアスタートアップのつくりかた」をお届けします。

ハードウェアスタートアップとは、製造を要するスタートアップの総称です。IoTを代表に盛り上がりをみせるなか、世界に誇るモノづくり技術や工場が多い日本には大きな期待が寄せられています。本セッションは、この潮流を的確につかみハードウェアスタートアップに製造工場や専門家を紹介するマッチングサービス『BRAIN PORTAL』をローンチさせた笠井一貴氏がモデレーターとして登壇。前半はハードウェアスタートアップが要するプロセスとケア観点を『BRAIN PORTAL』の支援内容とからめて紹介。後半はハードウェアスタートアップを経験した3名のゲストを招いたパネルディスカッションという構成で行われました。
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モデレーター
笠井一貴氏 株式会社リクルートホールディングス Media Technology Lab. 『BRAIN PORTAL』プロダクトオーナー

ゲストスピーカー
中西敦士氏 トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社 代表取締役オーガナイザー『DFree』
梶原健司氏 株式会社チカク 共同創業者兼代表取締役『まごチャンネル』
BrianLee氏 AKA LLC CSO『Musio』

笠井氏が最初に提示したのは、84%という驚くべき数字でした。

ハードウェアスタートアップが盛り上がりを見せるのと裏腹に、84%が量産化の壁を前に失敗している実態があるというのです。この工程を支援し、世の中をより良くするプロダクトを増やしていこうというのが、笠井氏の目指すこと。最適なタイミングで、最適な専門家や工場をハードウェアスタートアップとマッチングしているのです。

次に笠井氏は、ハードウェアスタートアップのつくりかたを順に紹介。
「最初に、なにを作るかを考えます。次に、そのプロダクトが対峙する市場について考えます」といいます。一見当然の話に聞こえますが、実は意外に難しいようです。というのも、想定外の市場でスケールすることも少なくないからです。その一例がスマートロック。住宅市場とは別に、民泊などシェアリングエコノミー市場の成長を背景にニーズが増えていったといいます。プロダクトのあり方や戦略にも影響するとあって、思い込みを捨て、冷静に見極める必要があるのです。

次に迎えるのが、試作工程。資金調達にも影響する重要なフェーズです。3DCADや無料の3Dプリンターでつくるケースがほとんどですが、笠井氏は警鐘を鳴らします。「3DCADや無料の3Dプリンターでつくると好きな形にできますが、量産するには金属製の型 (金型)をつくらなければなりません。プリンターでできたものが、金型では抜けないというケースが多いんです。そうなると、設計はやりなおし。プリント基板など内側のパーツもすべてつくりなおす必要があり、膨大な費用、時間が必要となります」と笠井氏。そうならないよう『BRAIN PORTAL』が、最適なタイミングで、最適な専門家や工場の紹介を行い、量産化までをナビゲートするといいます。
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ハードウェアスタートアップに必要なプロセスとケア観点がわかったところで、いよいよ3名のゲストをまじえたトークセッションにうつりました。

まずは、手がけているプロダクトの紹介から。
中西氏は「超音波センサーで膀胱や前立腺、直腸をモニターすることで排泄を予知するデバイス『DFree』をローンチしました。ぼく自身がもらした経験があり、介護施設など、ほかにも困っている人がいるのではないかと考えたのがアイデアにつながりました」と紹介。

次に梶原氏は「スマホで撮った子どもの動画と写真を、離れて暮らすおばあちゃん、おじいちゃんのテレビに送るサービス『まごチャンネル』を開発しました。僕の実家は淡路島。親と一緒に暮らしたときの楽しさをテクノロジーで再現できないだろうかと思っていたときに震災があり、実行に移しました」と紹介。

そしてLee氏は「学習エンジンを搭載した英語教育用ロボット『Musio』を開発しました。会社にはロボット好きが多くて、コミュニケーションできるロボットを自分で開発したいという人が多いんです。幼少期の経験も大きいのでしょうね。日本のアトムも人気です」と話してくれました。

これを受けて笠井氏は「スタートアップの多くはソリューションフィット。つまり課題解決から立脚するケースが多いけれど、ハードウェアスタートアップの場合は自分が欲しい、好きという気持ちが原点にあるケースが多いですね」と語りました。
さらに、ハードウェアスタートアップの特徴として、資金調達がしやすい点にも話が転じました。目に見えないサービスよりも、見て、触って価値を実感できるハードウェアは理解しやすいのです。
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続いて資金調達フェーズへとテーマがうつりました。

Lee氏「ベンチャーキャピタル(VC)の賛同を得るには、相手にも、これが欲しい、買いたいという気持ちになってもらうことが大切です。僕らのプロダクトでいえば、コミュニケーションできるロボットという価値は伝わりづらいので、英会話の習得をナビゲートする機能を実装しました。英会話スクールのレッスン料より安く、24時間ずっと勉強できることが価値となり、VCの賛同につながるんです。」

梶原氏は「エンジェル投資家(個人投資家)からの投資と、クラウドファンティング、創業融資などを利用しました。やりたいことを伝えたときに賛同してくれた方と組みました。伊勢丹に展示していたことが奏功しました。実績がものをいった感じです。」

これに対し笠井氏は「資金調達をマーケティングやPRの観点で利用するのも有効ですよね。伊勢丹での露出もインパクトが大きかったのではないでしょうか」と語りました。

そして中西氏は「投資家の賛同を得るには、実現したときにどれだけ大きなビジネスになるのかを説明すること、圧倒的に優れている点を説明することが大切です。そして想いを実現するチームビルドがあることも伝えます。あとは気合をどれだけみせられるか。必要な資料は即日に提出するとか」。

笠井氏は次に、VCの選び方、決め手について訊ねました。資金だけでなく、ハンズオンで戦略も一緒に練ってくれるところや、製造や販売を担うメーカー系のVCなども増えてきた現状を踏まえた問いです。

これに対し「老舗で実績があるところ」という見解も述べられましたが、ゲストにとっては「選ぶ余裕はなかった」というのが正直なところだったようで、とにかく提供してくれるところにお願いするという意見にうなずきあう展開となりました。

では、工場やパートナーに関してはどうだったのでしょう。

中西氏は「国内に限定し、その道のプロを地道に探しました。探してみると数カ所しかなく、そこにお願いしました。実現した際の面白さを伝え、いまは少数ロットだけど、この高みを目指すので力を貸してくださいとお願いしたんです」と話してくれました。

これに同意した梶原氏。さらに「けっこう大変で『BRAIN PORTAL』をもっと早く知りたかった。このサービスを利用していたら、夢物語のように語られている、ひとりメーカーも実現可能ですよね」と付け加えました。

これに対しLee氏は「僕も『BRAIN PORTAL』を利用したい。ロボットといえばジャパンと思っているので、これから日本の工場を探すつもりですが、サポートがないと難しいと感じている。ひとつの工場で済む話ではなく、パーツごとに複数の工場と手を組む必要があるので、サポートがないとハードルが高すぎると思っています」と語りました。

笠井氏はこの発言に、まさに『BRAIN PORTAL』の真価といった印象で大きくうなずき「そう、ひとつの工場と手を組むだけでは実現しないことが多いんです。ひとつひとつのパーツに最適なパートナーを探すという観点でも『BRAIN PORTAL』が提供できるものは大きいので、ぜひ利用してほしいです」と語りました。

そして最後に、ゲストから会場に向けてのメッセージ。

中西氏は「人は後からついてきてくれるので、まずは面白いことを本気でやろうという気持ちを持ってください。スキルがないからと諦めるのではなく、一歩を踏み出しましょう。」

梶原氏は「以前、ブランドを大事する会社に所属していたので、周囲の目を気にした時期もあります。でも、誰も人のことなんて意識していないんですよね。いい時代になったと思う。やりたいことをやりましょう。一緒にチャレンジし、苦労しましょう」。

Lee氏は「うちには30人くらいの仲間がいますが、みんな同じ気持ち。自分でロボットつくりたいとう気持ちだけ。やりたいことに挑戦するのは価値があることです。」

これを受けた笠井氏が「楽しいことがやりたいこと、を実現する手段として、ハードウェアスタートアップは最適といえます。みなさんも、ぜひチャレンジを!」と会場にエールをおくり、セッションは終了となりました。
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MTLweb編集部
リクルートの新規事業提案制度からローンチした『BRAIN PORTAL』。市場が同サービスを待ち望んでいたとばかりに急成長していますが、本セッションを通じてその価値をリアルに感じることができました。そして、ゲストのように「やりたい」「欲しい」という熱い想いを原動力とする世界中のスタートアップと、元気を失いつつある日本のモノづくりをつなぐことで再び火をつけることができるサービスだという確信も。イベントのコンセプトでもある、IGNITIONを体感できるセッションでした。

▶『BRAIN PORTAL
▶『DFree
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