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利用者の「意識」を捉えて届けるリクルート流のサービスと体験のデザイン -UX & Service Design vol.23

2017/03/03

みなさんは、LINEの企業アカウントに話しかけたことがありますか?
ちなみに、アルバイト情報サイト『フロム・エー ナビ』のキャラクター『パン田一郎』が、LINE公式アカウントになっていることはご存知ですか?ご存知の方もいらっしゃると思いますが、LINEで『パン田一郎』に話しかけると、名前を呼んでくれたり、ちゃんと(!?)返事をくれたりします。そのため、彼との会話を楽しむ人も増えているとか。

そんな『パン田一郎』の開発に至る裏話を、1月31日に行われたUX & Service Sketch vol.23でお話しいただきました!今回は、”リクルート流 – 新たな価値のつくり方”と題し、リクルート内で事業開発や新規事業に携わっていらっしゃるお三方をお招きし、事例を取り上げつつ、開発の裏話などについてお話しいただきました。
今回の会場は、銀座MTL Caféから場所を移し、東京ガーデンテラス紀伊井町内に本社を構える、ヤフー株式会社さんのコワーキングスペース『LODGE』!当日は、ヤフーの社員のみなさんもご参加くださり、大盛況。木のぬくもりと開放感のあるステキな会場で、勉強会がスタートしました。

〈登壇者〉
福田 基輔(リクルートジョブズ UXDグループ マネージャー)
早稲田大学芸術学校建築科卒業後、株式会社コンセントにてUXデザイナーとして数多くの大規模BtoCウェブサービスの情報アーキテクチャ設計・構築を担当し、2011年にリクルートジョブズへ入社。R&D組織にて新規サービス立ち上げに携わる。自然言語処理技術を使ったデザインディレクターとして関わったLINE公式アカウント『パン田一郎』が「2015年度グッドデザイン・ベスト100」を受賞。その他、「TIAA」のシルバー、「ADFEST」のブロンズなど受賞歴がある。

 

新たな価値のつくり方—利用者の“意識”を捉えて届けるサービスと体験のデザイン

大学で建築を勉強した後、ウェブサービスの設計にシフトチェンジし、株式会社コンセントで情報設計を担当していた福田さん。その後、リクルートジョブズに入社して、今年で5年目になります。

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リクルートは、利用者の進学や就職、結婚といったライフイベントのタイミングで情報などを提供するメディアをつくっている会社。その中で、リクルートジョブズはアルバイト・パートや派遣勤務をするタイミングで利用者と様々な関わり方をしています。そんなリクルートジョブズで、福田さんは新規事業開発、新規サービスを担当されています。

アルバイトをしたい人とアルバイトを募集したい人の幸せなマッチングに貢献することがリクルートジョブズの主な事業ですが、新規事業の種類としては3つあるのだそう。
1つ目は、求職者がアルバイトをより探しやすくするために、どう思考していくかというもの。
2つ目は、企業や店舗向けの新規事業で、採用後の社員やアルバイトの教育に携わっていくというもの。
3つ目は、マッチングプラットフォーム。最近では、『Job Quicker』という単発的なアルバイトのマッチングを行うアプリを開発・提供しているのだそうです。

 

『パン田一郎』アカウントを、ユーザーにとって価値あるものに

ここからは、いよいよLINE公式アカウント『パン田一郎』のお話へ。
公式アカウントをリリースしたのは、2014年。今でこそ、LINE上で企業アカウントと会話することもめずらしくないのですが、リリース当初はLINE上でAIを活用して雑談ができる、チャットボットを使った全く新しいアカウントとして認知されていました。雑談以外にも、天気予報を教えてくれたり、アルバイトのシフトを教えてくれたり、雑談の中でユーザーのニーズに合ったアルバイトを教えてくれたりします。
通常、アルバイトをしたいなと思った人が、アプリなどを通じて探し、アルバイト先が決まると、そのアプリは削除されてしまいます。そうなると、そのユーザーが次にアルバイトを探す時に再度『フロム・エー ナビ』を認識させる必要があり、二重に手間がかかってしまいます。コストがかかり続ける構造を何とか変えたい。そんな思いから、LINE公式アカウント『パン田一郎』が誕生しました。アルバイト求人を探しているほとんどの人が利用している『LINE』アプリで、継続的に『パン田一郎』がコミュニケーションをとることで、一旦はアルバイトが決まっても、また次のアルバイトを探すタイミングで『フロム・エー ナビ』の存在を思い出してもらうという構造になっているのだそうです。

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その一方で、ユーザーに対しては、実在する友達のような存在としてやりとりをしてもらえることを目指したのだそうです。そのため、LINEのアカウント名に、『フロム・エー ナビ』の名前を出すのではなく、ユーザーにより近い存在である『パン田一郎』を選んだとのこと。

開発当初はまだチャットボットの実用例が日本になく、LINE上でユーザーとどんな会話をするかの知見が全くなかったのだとか。そこで、まずはユーザーが何を送ってくるかを知らなければいけないと気づいたと話す福田さん。リリース前に40人ほどに協力してもらい、ユーザーテストを実施して、ユーザーがどんなメッセージや質問を送ってくるのかログを取ったのだそう。リリース後もログを取り続け、それに対する返答を3~4人のライターでつくっていったそうです。当時はまだまだAI技術が十分ではなく、データからユーザーが送ってくるメッセージを想定して、それに対する返答メッセージをつくっていくしかなかったのだとか。

『パン田一郎』をユーザーの身近な存在につくり上げる

ここからは、『パン田一郎』の“実在感”を演出するためのポイントの紹介へ。
① 返答のタイミング
『パン田一郎』は自動返信するロボットなので、ユーザーがメッセージを送ると瞬時に返信することが可能です。しかし、それでは機械的で冷たい印象を与えてしまいます。そこで、ユーザーがLINEのやりとりをする際の気持ちのいいリズムや間合いにこだわったのだそう。実際に、ユーザーテストでは、一人ひとりの表情を伺いながら、ちょうど良いリズムを探っていったといいます。

② 返答メッセージの口調
テレビCMに登場する『パン田一郎』は、引っ込み思案な大学生で、学校でも敬語で話すような気弱なキャラクター。しかし、LINE上の1対1のやりとりの中でも敬語を使うと、人はよそよそしさを感じてしまいます。そこで、会話のやりとりの3~4割はあえて少しカジュアルな言い回しに変えたのだそう。

③ 返答メッセージの長さ
リリース前は、『パン田一郎』はおもしろいな、気が利いているなと感じてもらうためにメッセージ1つに対してもきちんとつくり込み過ぎて、長文のメッセージになってしまっていました。しかし、ユーザーテストの段階で、長いメッセージに対するユーザーの反応があまり良くないことが判明。加えて、身近な存在の人であればあるほど人は短いメッセージでやりとりをすることが多いものだということがわかりました。そこで『パン田一郎』のメッセージを、当初の設計よりも短い文字数に変えていったのだそう。

 

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こうして、LINE公式アカウント『パン田一郎』の友達登録数は、17,529,927人まで増え(2017年1月31日現在)、2015年の「グッドデザイン賞・ベスト100」にも選ばれました。

PDCAサイクルではなく、LTPDサイクル

ここで、リクルートジョブズのサービス開発、UXの考え方について紹介していただきました。
世間一般的知られている、「PDCAサイクル」というものがありますが、リクルートジョブズではこれを「LTPDサイクル」に置き換えて活用しているのだと福田さんはいいます。

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世間一般的なものは、Planが最初に来る。しかし、リクルートジョブズではまずは関連する数字やユーザーの状況などを見たり、インタビューしたりして情報を集めることから始めることが重要との考えで、「LTPDサイクル」という考え方で仕事を進めています。
このLTPDを回して、ユーザーにとってそのプロダクトが価値あるものになっていくことを目指していくのだそう。

実際に福田さんは週末に飲食店でアルバイトをして、現場のリアルな一次情報をインプットしがら、シフト管理サービスなどのプロダクトデザインを行ったのだそうです。例えば、リクルートジョブズが開発した店舗側に提供するシフト管理アプリや採用管理アプリの場合は、実際に福田さんがいろいろな店舗で週末にアルバイトをして、現場を見た上でプロダクト制作を進める、ということを行っているのだそうです。最後は、「ぜひみなさんもLTPDサイクルを活用してみてください」という福田さんの言葉で締めくくられました。

 

こうして、『パン田一郎』のLINE公式アカウントの開発秘話から、プロダクト開発に取り組む上での考え方に至るまでの話をご紹介いただきました。
今回は、今までのUX & Service Sketchとは異なり、リクルートの挑戦し続ける姿勢をみなさんに知っていただくイベントになったと感じています。参加されたみなさん、いかがでしたか?何かヒントとなるものを得ることはできたでしょうか?
UX & Service Sketchでは、これからも内外にかかわらず、さまざまなスピーカーを招いて勉強会を実施していく予定です。ぜひ、みなさんの次回の参加をお待ちしています!