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日本発サービスのグローバルでの戦い方 -UX & Service Sketch vol.25

2017/05/01

事業開発や新規事業を進める上で、良いポイントや悪いポイントを、現場の最先端で活躍されている登壇者をお招きして共有していくイベント『UX & Service Sketch』。その25回目が、Media Technology Lab.(以下、MTL) Caféで行われました。

今回のテーマは“日本発サービスのグローバルでの戦い方”。グローバル展開を推し進めているサービスの担当者をゲストに迎え、海外との文化の違いやローカライズなどに関する体験設計、デザインプロセスとその思想などを学べる勉強会となりました。

 

〈ご登壇者〉

吉田健吾さん(株式会社トレタ 取締役COO)
『食文化と課題解決』

平田祐介さん(Repro Inc. CEO)
『B2Bのマーケティングは海外の方が易し?』

磯谷拓也さん(リクルートライフスタイル プロダクトマネージャー/UXデザイナー)
『Airレジ海外版を日本で開発するためのデザインプロセス』

 

食文化と課題解決

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1人目の登壇者は、飲食店向け予約/顧客台帳サービス『トレタ』を手がけるトレタのCOO(最高執行責任者)を務める吉田健吾さん。今回は2016年3月にシンガポールに新会社TORETA ASIA Pte. Ltd.を設立した際に感じた、日本と海外の違いについてお話しいただきました。

トレタは、これまで飲食店が“紙”で行っていた予約管理を、“タブレット”で手軽に行えるようにするサービス。2013年12月のサービス開始以降、約8,000店の飲食店に導入されています。順調に国内のマーケットシェアを広げていっている同サービスを海外に展開していく際、どのようなことを意識したのでしょうか?

吉田さんによると、海外展開にあたってまずは仮説立てた、と言います。
「国内の飲食店が抱えている予約管理の問題は、海外でも同じだと思ったんです。多分、電話の予約は紙で管理しているだろうし、ネットとの二重予約になっているだろうな、と」。その仮説を持って、海外に足を運び、まずは仮説を検証してみたわけです。

ただし、海外のあらゆる国で検証するわけにはいきません。
吉田氏は「予約・顧客台帳サービスなので、屋台などのお店しかない地域だとあまり普及していかない」と語り、検証するのは食文化が発展しているアメリカ、ヨーロッパ、東アジア、ASEANの4つに絞りました。

そして検証する際、トレタをローカライズするのか、それとも全く新しいサービスにするべきかといった“プロダクト”の観点と、ホットペッパーや食べログといったグルメメディアやPOSレジがどれくらい活用されているのかといった“マーケット”の観点、その2つをポイントに仮説の検証をしていったということです。

実際に検証を進めていくと、ほとんどの飲食店が予約管理を紙で行っていて、事前に開発していたトレタの英語版を飲食店に持っていき反応を確かめたら「評価がすごく良かった。その反応を見て、ローカライズしなくてもいけるという手応えが掴むことができ、プロダクトの観点の課題は解決したんです」と吉田さんは語ります。

その後、マーケットの観点からアメリカ、ヨーロッパ、東アジア、ASEANのどこに展開するか決めることになるのですが、トレタが選択したのはASEANでした。

「アメリカは先行する巨大なサービスがあり、マーケットシェアを獲得するのは難しい。またヨーロッパは、食文化は発展しているけれど、日本とも距離があり、国が細かく別れている。また東アジアは独自の経済圏が成り立っているので、自分たちの力でやっていくのは難しい。一方、ASEANは今後伸びていく可能性のある市場で、食文化が発展していく初期の段階で参入できればすごく意味があると思い、ASEANの中でも食文化の成長が著しいシンガポール進出することを決めました」(吉田さん)

いざ進出するにあたって、トレタは代表取締役の中村仁さんが直接立ち上げを行うか、営業が有利になるネットワークを持つ人を探すか、どちらにすべきかを検討しました。そんななか、中村さんが何回かシンガポールに足を運ぶうち、現在、TORETA ASIA Pte. Ltd.の代表をしている白石さんと出会い、その結果、彼に立ち上げを任せることにしたといいます。

「彼はシンガポール在住で、直近まで食品の卸売の会社をやっていたり、日本の飲食店をシンガポールに進出させるための仕事をしていたこともあり、シンガポールの飲食店事情に精通していました。彼なら間違いないと思い、シンガポールのトップを任せることに決めました。」(吉田さん)

実際、白石さんを中心に現地法人を立ち上げていった結果、組織づくりはスムーズに進み、4カ月程度で7〜8人の組織にすることができたとか。ただし、立ち上げから半年くらいは毎月1週間ずつ、代表取締役の中村さんや営業マネージャーがシンガポールへ行き、営業のレクチャーをしたり、営業に同行したりしてノウハウを伝えていきました。また、エンジニアやデザイナーも現地に行き、開発の思想や現地の飲食店からあがってきた要望の対応を行ったという話です。

最後に吉田さんは「海外展開にあたって、基本的には言語のローカライズや現地メディアとの連携くらいしかしていません。今後、現地のPOSレジにも対応していきたいと思っています」と展望を語りました。

 

B2Bのマーケティングは海外の方が易し?

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二人目の登壇者は、モバイルアプリ向けのアナリティクス・マーケティングツール『Repro(リプロ)』を提供する、Repro株式会社代表取締役CEOの平田祐介さん。今回はReproが世界46カ国で導入されるまでの道のりについてお話いただきました。

「まず自分たちがどこの市場で戦っているか理解する、そして、競合プレイヤーはどういった機能を提供しているのか把握した上で、自分たちの強みを際立たせていけば、海外の人たちは勝手に使い始めていくんです。」(平田さん)

Reproの強みはユーザーがアプリをどう使っているのか動画でトラッキングし、定性分析ができること。もうひとつはアナリティクスとマーケティングの機能を連携することによって、ユーザーの離脱率が高い箇所を特定し、そこで離脱したユーザーを抽出してプッシュ通知やクーポン配信などのアプリマーケティングができること。これらの機能によって、アプリの真の課題発見、ユーザーの定着、マネタイズなどが可能になるそう。

それ以外にもエンジニア向けのドキュメントや管理画面、技術サポートを英語対応することで、自然と海外ユーザー数を増やしていくことができたとのこと。

そのため、周りから「広告費かけて海外ユーザーをもっと増やせばいいんじゃない?」と言われることも多いそうですが、平田氏によると「ユーザー獲得とビジネスは全然違う」そうで、ユーザー獲得を第一に考えてはいない、とのこと。実際、海外ユーザーは増えているのですが、収益の貢献度合いはあまり高くないそう。

ただし、将来的には海外への進出も本格的に検討しているようで、現在テストマーケティングを行っている、と平田氏は言います。

「どのアプリジャンルが受け入れられるのか、それがどのエリアに受け入れられるのか。Facebook広告をアメリカの西海岸、東海岸にセグメントを分けて、どれくらいの反応があるのか、LTV(ライフタイムバリュー)はどれくらいか、を少額のマーケティングコストをかけながら見極めています」(平田さん)

実際に結果を見てみると、西海岸よりも東海岸の方がコマース事業者が多く、数値的な反応も良いため、海外展開をするのであれば東海岸に行く可能性が高い、と語りました。

 

Airレジ海外版を日本で開発するためのデザインプロセス

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最後に登壇したのは、POSレジアプリ『Airレジ』海外版のプロダクトマネージャー/UXデザイナーとして、調査からUX設計、開発チームのマネジメントまで幅広い領域を担当している磯谷拓也さん。今回、“Airレジ海外版を日本で開発するためのデザインプロセス”をテーマにお話いただきました。

2015年1月に英語版AndroidアプリをリリースしたAirレジ。しかし、国によって文化が異なるため、どこをローカライズするか悩むことが多くあるそう。

「中国はAlipay(アリペイ)やWeChat(無料メッセージアプリ)などでの支払いの文化が進んでいて、深センはTencent(Wechatの提供会社)のお膝元ということもあり、WeChatがインフラのように普及しているので、日本とは支払い文化が大きく異なる。例えば、ファストフード店舗に行くとQRコードが置いてあり、それをWeChatで読み取るとお店のメニューが表示され、その場で注文と決済ができる。」(磯谷さん)

その他には、ニューヨークにはスペイン語しか通じない地域があったり、同じ国でも地域によって特性があるとのこと。

そうした状況の中、プロダクトを開発していくにあたって、磯谷さんは「チーム全体が日本と海外の違いを理解すること」を意識しているそうです。

「自分一人で理解してやるのではなく、チームメンバーがそれぞれの意見をもって改善していかなければ、正解が何かわからない状況の中で正しいものづくりができない。そのため、メンバーが自立して考える状態を作り出すようにしています」(磯谷さん)

具体的にどんなことをやっているのでしょうか?
磯谷さんは「チーム内で現場で何が起きているかを解釈し、その差分を知る」、この一連のプロセスを回し続けていくことが大切と話します。時には、ビジネス開発やエンジニア、デザイナーを一箇所に集め、集中的にワークを行い、業務の理解を進めていくそうです。

「不確実性の高いプロジェクトを進めるにあたって、起点がズレていると、どこにもたどり着かなくなってしまう。まずは全員で出発点の足場を固めるという意味で、ワークを一緒に行うのは大切だと思います」(磯谷さん)

また、現場で何が起きているかを解釈する、という点においては「だれが、どこで、どんな情報をやり取りしているのか」、この3点を意識することが大切になるとのこと

例えば、“だれが”に関してはどういう人が、どういう目的をもって、どんな関係性の中で働いているのか、そのタスクを整理していく。その後は店舗レイアウト、店員の動線、関連する道具の物理的配置など、“どこで”の情報を拾い上げていき、それを最終的に誰と誰がどんな情報を、どの順番で何を使ってやり取りしているのか、というように“どんな情報をやり取りしているのか”にまとめて整理していくそうです。

「この(だれが、どこで、どんな情報をやり取りしているのか、という)3つの視点を持って情報を抑えていくと、現場がアプリ上の画面のデザインだけでなく、だれが、どこで、どんな情報をやり取りしているのか、情報が立体的に立ち上がってくるので、こういった視点を共有し、場を理解してもらうようにしています」(磯谷さん)

そうして、国内と海外の違いを知るために、まずは国内の状況を理解し、次に現地の状況を教えてもらう。一定の知識を身につけた状態で実際に現地に行くことで、エンジニアやデザイナーが国内と海外の違いを知り、課題を自分ごと化して提案できるようになるとのこと。

最後に、磯谷さんは「3つの視点で解釈すること、国内から海外へと進める適切な人を適切なタイミングで巻き込むことが海外展開において大切だと思います。また今回の経験を通して、グッズ(商品)ではなく“サービス”を提供する姿勢が重要だなと思いました」と語りました。

 

ここからは、3人の登壇者によるトークセッションの時間。MTLの松川がモデレーターを務め、お一人ずつ率直な思いをお話していただきました。

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松川:海外展開を成功させるキーファクターは?

吉田さん「国内では、飲食店自体が業務支援サービスなどを探して導入する、ということはほとんどありません。ですので、直接営業に行かないと『トレタ』というサービスの存在に気づいてもらえないことが多いんです。視察に行ったところシンガポールでもそこは日本の状況と大差ないことがわかりました。とはいえ、いつ状況が変わるかもわからないので、シンガポールの営業とも国内同様、密にコミュニケーションをとって、現地の飲食店の様子を理解することが大事だな、と思っています。」

平田さん「成功してから語りたいところではありますが(笑)、個人的には社長、もしくは社長と同じくらいの思いを持った人が現地に行って展開しないと、マーケットシェアをとるのは難しいのかな、と。現地の陣頭指揮をとるのは誰よりも事業にコミットしている人で、その人が毎日意思決定すべきだと思います。」

磯谷さん「海外では、日本と同じようで違う部分はけっこう多くて。約束事がひっくり返されることも往々にしてあります。そういう違いを理解して柔軟に受け入れることが一番大事かな、と思います」

 

松川: 今、抱えている課題、ぶちあたっている壁はありますか?

磯谷さん「本当に壁だらけです。プロダクトに関して言うと、先ほどの中国みたいにレジすらいらなくなりそうな国も出てきているので、どこに視点を置くべきかは難しいと感じています」

平田さん「壁は多分、僕ですね。(汗)どこまでアクセルを踏み込んで海外に展開していくべきか、非常に悩んでいる部分があるので自分が壁になっているな、と思います。

吉田さん「シンガポール以外にも展開できそうだな、と思う地域はいくつかあるのですが、国内でもまだ成功したといえる状況ではないので順番にやっていくしかないかな、と思っています。ですので、どういう順番で、どこにリソースを割くか、は課題に感じている部分ですね」

 

松川: 今日、この場でお話しいただける失敗談は何かありますか?

吉田さん「シンガポールの雇用環境は日本と全然違っていて、割と簡単に辞められてしまうし、来なくなってしまう。日本と同じやり方でマネジメントしようとしても上手くいかないので、現地に精通した人をトップにしているのですが、感覚が全然違うんだなと思いました」

平田さん「シリーズA(スタートアップにおける、投資の種類の1つ。サービス拡大ために使われる資金調達のこと。)前に法人をアメリカに移して、しっかりチャレンジすれば良かったな、と後悔しています。」

磯谷さん「海外展開してきた国の中で、個人的に中国が一番インパクトに残っているのですが、全然スピード感が違うんですよ。ちょっと頑張るではなく、考え方を変えないとついていけない、ということに気づくのが遅かったな、と思います。もっと早い段階から、それを認めて、学ぶところは学ぶ、ということを行えば良かったです。」

 

松川: 今日、他の登壇者の話を聞いて、「自分の考えと近いな」と思ったところはありますか?

吉田さん「今日の3社の話を聞いて、共通点を見つけるのはすごく難しいなと思っていて。ただ、Airレジさんは自分たちと近い領域なので、似たようなモノの作り方をしているんだな、と感じました。」

磯谷さん「いま、吉田さんが仰っていたのですが、トレタさんは近い領域ですので、今日の話はとても参考になりました。」

平田さん「少し前までは海外に展開するIT企業は少ないな、と思っていたのですが、今日話を聞いて海外展開しようとしている企業が増えているんだな、と感じました。」

 

松川: 最後に、海外展開前の自分にひとこと言えるとしたら何といいますか?

磯谷さん「自分は、「早く挑戦した方がいい」と言いますね。もっと早い段階で海外文化のことを知れていれば、自分の成長幅も違ったかな、と。」

平田さん「自分は「日本で起業するのはやめた方がいい」と言いますね。海外展開を考えるのであれば、最初から海外に拠点を作って展開していった方がいいと思います。」

吉田さん「実はあまりなくて、幸運にも僕たちは資金的にもちょうどいいタイミングで挑戦できたのかなと思っています。」

 

こうして、トークセッションが終了しました。登壇者のみなさん、ほんとうにありがとうございました。

参加者のみなさん、普段なかなか聞くことのできない話題がたくさん飛び出した今回のUX & Service Sketchは、いかがでしたか?今後、お仕事をされていく上で何かヒントとなるものがあったのではないでしょうか。

UX & Service Sketchでは、定期的にイベントを行っています。今回は参加できなかったという方も、ぜひ次回のチャンスをお見逃しなく!