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ゼロからプロダクトを立ち上げるには? -UX & Service Sketch vol.26

2017/05/02

2017年3月8日に開催されたUX & Service Sketch。
第26回目のテーマは「0からのプロダクトの立ち上げ方」。
アイデアもチームも決まっていない段階から、どうしたら良いプロダクトを世に出せるのでしょうか。今回は、昨年Googleによって開催されたAndroid Experiments OBJECT(※)にてグランプリを受賞した方々をお招きし、チームビルディングやアイデア出し、デザインプロセスなどが学べる有意義な場となりました。

※Googleが主催する「未来をつくるデバイス」コンテスト。グランプリに選ばれたコンセプトアイデアは、Google他協賛企業の支援を経てプロトタイプ開発が行われた。

〈ご登壇者〉

タキザワケイタさん(TEAMmined – Leader / Service Designer, Workshop Designer)
ハイレベルメンバーによる共創実験
妊婦にやさしさが伝わる スマート・マタニティマーク

宮崎了さん(ziba tokyo – Experience Designer / TEAMmined – Chrnoscape Leader, Concept)
加来幸樹さん(Septeni co.,ltd. – Senior Chief Director / TEAMmined – Copywriter)
「Chronoscape」をカタチにした“必然”と“偶然”

井上裕太さん(QUANTUM Inc. Startup Studio事業責任者)
アイデアと情熱があれば誰もが未来をつくれる

 

ハイレベルメンバーによる共創実験

最初に登壇したのは、 Android Experiments OBJECTにてスマート・マタニティマークとChronoscapeの2作品でグランプリを受賞した、タキザワケイタさん。「ハイレベルメンバーによる共創実験」をテーマにお話しいただきました。

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ワークショップデザイナーとして日々、ワークショップを実践しているタキザワさんは、「ワークショップの成否は参加メンバーで80%が決まる」と言います。ワークショップを実施すると、盛り上がったけど成果はイマイチ、わざわざワークショップをやらなくても思いつきそうなアイデアばかり… といったことが起こりがちですが、それは参加メンバーによるところが大きいです。ワークショップで一定の成果を出すには、メンバー選びが大切です。

では、メンバーのレベルを最大まで上げたらどんな場が生まれるのでしょうか?
実際、「タキザワの知人で最強打線を組んで、ワークショップで共創してみる実験」というタイトルで、Googleのコンペをお題に友人へメッセージを送ってみたそうです。

結果、反応は上々。メッセージを送った2日後には会社や職種の垣根を超えた10名のチームが誕生し、Android Experiments OBJECTに向けて共創実験がスタートします。

「初回のワークショップのはじめに、世界中の企業に対して48時間で提案する『The Pop Up Agency』のムービーを見せて自分がやりたいことを伝えた後、このプロジェクトで成し遂げたいことをメンバー全員で発表しました。」(タキザワさん)

まず、なぜこのプロジェクトに参加するのか?を明確にしました。次にパーソナルな困りごとからテーマを抽出。アイデア出しをして、1回目のワークショップは終了したとのこと。

その1週間後に2回目のワークショップを開催。そこでは2名のグラフィックレコーダーが議論を可視化しながら、テーマフォーカスディスカッションを行うことに。

「メンバーでディスカッションしていると展開がとても速く、アイデアのヒントが次々と出てくのですが、グラフィックレコーディングのおかげで議論だけに集中することができました。」(タキザワさん)

また、“Android とつながることで生活がより便利により楽しくなるようなデバイス”を意識して、「◯◯◯がデバイスとなり、Androidとつながったら…」というフレームの◯◯◯に入るテーマを3分間隔で変え、各自がアイデアを出し続ける「3分アイデアソン」を実施。アイデアを量産していきます。

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さまざまなアイデアが生まれ、2回目のワークショップは終了。生まれたアイデアの種も参考に、「自分が本当に実現したいアイデア」を考えてくるのが3回目のワークショップまでの宿題に。

そして1週間後に開催された3回目のワークショップ。ここでは宿題となっていたアイデアの共有から始まり、「コレをやりたい!」、「伸びそう!」といった基準でアイデアを評価。

「このアイデアでコンペを獲れるのか?を問いかけながら、アイデアを選びました。」(タキザワさん)

その後は、アイデアの担当者を決めてブラッシュアップ。最終的には10個のアイデアを応募することに。

結果は10個のアイデアのうち、Chronoscapeスマートマタニティ・マークの2つがグランプリを受賞。Google、QUANTUMの支援を受けながら、6ヶ月間でプロトタイプを開発していくことになったのです。

ワークショップの詳細、応募アイデアはタキザワさんのブログで公開されているので、ぜひご覧ください。

では、この2つのプロダクトはどのように開発されていったのでしょうか?

 

Chronoscapeをカタチにした偶然と必然

続けて登壇されたのは、Chronoscapeの開発に携わった宮崎了さんと加来幸樹さん。
お二人は「Chronoscapeをカタチにした“偶然”と“必然”」をテーマに講演。開発までの道のりを語ってくれました。

Chronoscapeは、いま訪れている場所の「違う景色」を見せてくれるプロダクト。
Androidアプリと連携して「違う景色」を見ることができる場所に近づくと、Chronoscape から通知があります。Chronoscape をのぞき込み、操作部を回転すると、その場所の「違う景色」すなわち、別の時間のさまざまな風景を見ることが可能に。さらに、お気に入りの風景は、ワンタッチでスマホに保存して、後から見返したり共有したりできます。

<コンセプト動画>

このプロダクトはどのように開発されていったのでしょうか?お二人は下記の4ステップで進めていった、と言います。

①どんなテーマにするのか?
②どんなデバイスにするのか?
③どんな価値を提供するのか?
④何をプロトタイプ展示するのか?

各ステップでの詳細について、お二人からは「必然的なアプローチ(宮崎さん)」、「偶然的なアプローチ(加来さん)」に分けてお話しいただきました。

①どんなアイデアにするのか?

必然的アプローチ

「先ほど、タキザワさんの説明にもあったように応募するにあたって、5つテーマが決められていました。ただ、応募概要には『Others(その他)』という枠があって。これを見たときに自由に発想できるな、と思いました」(宮崎さん)

「PHOTO」や「MUSIC」といった他のテーマはアイデアを考えるきっかけにし、あまりテーマに縛られないことを意識したそうです。

「ビックアイデアを生み出すためには、解決すべきビジョンや課題設定が重要。今回、いろんな会社から人が集まっている、ということでみんなの知識や経験から出てくるアイデアをもとにテーマを決めようと思いました」(宮崎さん)

ワークショップを開催するにあたって、各自参考になりそうなアイデアを持ってくる、というルールを決め、「MAP/TRAVEL」の困りごとを抽出し、それをもとに方向性を決定しました。

偶然的なアプローチ

テーマを決めるにあたって偶然的なアプローチは、どのような役割を担ったのでしょうか?加来さんによると、どういうデバイスで体験を伝えていくのか、を考えるのに活きたそう。

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「先ほど、タキザワさんのプレゼンテーションの中で発表されていましたが、“◯◯◯がデバイスとなり、Androidとつながったら……”という発想法は、本来問いから答えに行きつくところを、あえて答え側から発想するという強制的なもの。ワークショップでは数あるアイデアが生まれたのですが、中でもメガネをデバイスにしたら面白そうだな、と思いました」(加来さん)

必然的アプローチから導き出されたテーマと偶然的なアプローチによって導き出されたものを掛け合わせることで、当初『Field Glass』というタイトルでChronoscapeの原型が生まれていったそうです。

②どんなデバイスにするのか?

必然的なアプローチ

テーマが定まったら、次は応募条件に沿って、「どんなデバイスにするのか?」を決めていかなければなりません。当時の応募条件は「Androidがより楽しくなるデバイスのアイデアを募集する」、「現在まだオープンな形で存在しない要素技術を含むものは対象外にする」といったものでした。

「技術的な実現可能性を考えていったときに、ある程度のサイズ感が必要だということが少しずつわかってきました。同時に、どういう体験ができるのかも考える必要があって。最初は双眼鏡のような形を考えていたのですが、もう少し感覚的に操作できる単眼にしました」(宮崎さん)

偶然的なアプローチ

フィジビリティの進めやすさとUXの考え方から「単眼が良さそう」とブレストしながら、紙を使って試していたところ、加来さんは「万華鏡に似ているな」という感覚を得たそうです。

「万華鏡というイメージで考えていくと、どんな情報にもアクセスできる時代だからこそ、わざわざデバイスを通じて覗き込んで見ることの価値は何かを考えました。また、予測不可能なランダム性などがデバイスのコアな価値を考える上でのヒントになっていきました」(加来さん)

そして、Android Experiments OBJECTに応募したところ、見事にグランプリを受賞することができ、プロトタイプ制作・展示に向けて約6カ月間の開発がスタートします。

③どんな価値を提供するのか?

必然的なアプローチ

非常にタイトなスケジュールの中、開発を進めていくにあたって、「どんな価値を提供するのか?」を決める必要があります。

「限られた時間とリソースの中で、まずはやらないことを決めました。また、ペルソナを細かく設定し、背景にあるストーリーを作っていくことで世界観を固めるだけでなく、チーム内での共通認識を持たせるようにしました」(宮崎さん)

偶然的なアプローチ

「価値を定義するにあたって、迷っている部分もあったのですが、たまたまネットサーフィンをしていたら、『Web.4.0の時代』という記事を見つけて。それを読んだときに、AIによる究極のスマート体験は実現され始めているな、と感じ、『であればWeb5.0の場合はどうなんだろう?』と考えてみたんです」(加来さん)

加来さんが生み出した考えは、セレンディピティ(ふとした偶然から幸せをつかみ取ること)をテクノロジーで生み出す時代。これをもとにミッションが「未来をより良くするためのセレンディピティを生み出すAndroid×デバイスを生み出す」に決まり、Chronoscapeの提供する価値も「いま訪れている場所の『別の景色』を見せることで訪れた場所での体験やその後の行動をより豊かにしていく」に決定しました。

そして最後、実際に何を展示するのかを考えていくことになります。

④何をプロトタイプ展示するのか?

必然的なアプローチ

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「今回の展示で重要視されていたことが、“来場者が実際に体験できること”だったんです。世界観を作ると同時にプロトタイプの設計も進めていたのですが、全てを盛り込んで肝心な部分が伝わらなくなるのは嫌だな、と思ったので体験に力を入れていくことにしました」(宮崎さん)

また、プロジェクトのゴールは「展示」だったのですが、チームのゴールは“展示すること”の先にあって、商品が世の中に出たときのことまで考えて展示に臨んだそうです。

偶然的なアプローチ

「展示の中でコアになるのは、デバイスを通じて何が見えるか。ピント合わせや画面サイズが体験上の課題となっていて、『とはいえ』の議論だけが進んでいたのですが、その時はそもそも自分たちがやりたいことは何か、に立ち返ることにしました」(加来さん)

その結果、開発を進めていくにあたって、Chronoscapeを覗いた時に偶然残っていた“余白”が万華鏡のようなアーティスティックな体験の提供につながっていったそうです。

最後にお二人から、ゼロからプロジェクトを立ち上げるコツは「“必然”と“偶然”を意識したチーム構成にする」、「偶然的な出来事を必然的に起こすこと」とメッセージを送られました。

 

妊婦にやさしさが伝わる『スマート・マタニティマーク』

続けて、『スマート・マタニティマーク』の開発を手がけたタキザワケイタさんが再び登壇し、スマート・マタニティマークが出来るまでの道のりを語りました。

Chronoscapeと同様に約6カ月後のプロトタイプの展示を目指して開発を進めていったのですが、メンバーは全員本業が別にありました。タキザワさんは「本当に実現できるのだろうか?と、当時はすごくプレッシャーでした」と振り返ります。では、どのように開発を進めていったのでしょうか?

<コンセプト動画>

開発を進めていくにあたって、ある程度のマイルストーンは設定されていて、QUANTUMとのMTGは毎週行われていたそうです。

「最初のMTGではチームのビジョンを明確にしたいと思い、まずはマタニティマークに関する体験談を聞くことから始めていき、最後に各自がプロジェクトを通じて実現したいコトを発表しました。それに加え、最初の段階から外部を巻き込んでいくことを意識して進めていきました」(タキザワさん)

毎週、仕事後に行われるQUANTUMとのMTG。物事が決まらなかったら、終電までMTGをやったり、メンバーのみで集まってMTGを行ったりして進めていったとのこと。

「最初のフェーズで肝だったのが、フューチャーセッションをしたこと。『妊婦が安心して子供を産める社会へ』という大きなテーマでいろいろな方をお招きし、外部を巻き込んだほか、『やさしさの見える化』というコンセプトを発見し共有することができました」(タキザワさん)

そして、Googleへの中間発表へ。

「当時、やりたかったのは『amulued』という「お守り」をテーマにしたデバイスでした。妊婦さんに席を譲るではなく、お腹の中にいる赤ちゃんに席を譲る、というように意識を変えていければいいんじゃないかと思い、水滴型の大小2つがセットで赤ちゃんの存在を想起させるデザインでした。また、マタニティマークを見つけてもらうものではなく、妊婦さんが安心できるものにしたく、赤ちゃんの心音にあわせてデバイスが点滅する機能も考えていました」(タキザワさん)

しかし、スケジュールや予算の都合などから見直しをすることに。フィールドワークや妊婦と席を譲る人へのインタビュー、Webアンケートからカスタマージャーニマップを作成。また、UXを研究している大学教授からアドバイスをもらいながら、自分たちがフォーカスする課題を決めていったそうです。

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そうしてGoogleへの最終発表を経て、現在の形に。その後もロゴマークやUXの検証、ユーザーテストなどを繰り返し行っていきます。結果的に無事プロトタイプは完成し、展示をすることができたそうです。

最後、タキザワさんの口から今後の展開が語られました。

「この活動を通じて、検索結果を変えたいと思っています。現在、マタニティマークで検索すると一位は厚生労働省ですが、その他は“マタニティマークは危険”“危ない”といった結果になっている。今後、サービスの社会実装を進めていきますが、同時に検索結果を正しい内容に変えていくことで、妊婦が安心してく暮らせる社会を実現したいと思っています」(タキザワさん)

また、ヘルプマークや耳マーク、目の不自由な方、東京オリンピックでの外国人旅行者など、“困った人を助け合うインフラ”として展開させていくことも検討しているそうです。

 

アイデアと情熱があれば誰もが未来をつくれる

最後に登壇したのは、Android Experiments OBJECTの運営側であるQUANTUMの井上裕太さん。運営側の視点から見た、Android Experiments OBJECTが語られました。

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「普段、QUANTUMは事業会社のサポートをすることが多いのですが、GoogleとAndroidというプラットフォームと組めば、ビジョンや熱い思いを持っている人をサポートできるのではないかと思い、Android Experiments OBJECTの企画・運営のお手伝いをしています」

このプロジェクトは日本で初めて開催されたもので、ゼロから応募者を集めていったそうです。「最初、フルタイムで働きながら、余った時間を使ってプロダクトを作りたい人がどれだけいるんだろうと思った」と語った井上さんですが、蓋を開けてみたら、200以上の案が集まってきたとのこと。

「発表を聞いてみなさんもおわかりかと思うのですが、選んだら期間内でプロトタイプを作らなければいけないので、本当に作れるかどうかを考えながらアイデアを選んでいきました」

先ほどのタキザワさんの発表にもありましたが、QUANTUMは毎週MTGを行うなどプロダクトの開発をサポート。ビジョンを大事にし、一緒に伴走していくことでアイデアを形にすることができたのです。

「2月の展示でアイデアを形にすることはできましたが、まだ全然終わりではないと思っていて。マタニティマークでいうと、世に出て使われる、多くの人に知れ渡って世の中が変わるところはまでいかないとゴールしたとはいえない、と思っているので、そこを目指していきたいですね」

Android Experiments OBJECTをもとに、0からプロダクトを立ち上げる具体的な事例を知ることができた、今回のUX & Service Sketch。エンジニア、デザイナー、ディレクターとして働いていく上でのヒントを得られたのではないでしょうか。

UX & Service Sketchでは、定期的にイベントを行っています。今回は参加できなかったという方も、ぜひ次回のチャンスをお見逃しなく!