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グッドデザイン賞受賞プロダクトのUX開発手法 —UX & Service Sketch vol.20開催

2016/12/26

12月1日(木)、Media Technology Lab. Caféにて、UXについて考える会UX Sketchの第20回が開催されました。

今回のUX Sketchは、「グッドデザイン=良いUX」なのではという観点から、2016年のグッドデザイン賞を受賞したプロダクトを担当されている4人の方をお招きし、ご自身の体験談やグッドデザイン賞をとるための秘訣など、貴重なお話を伺いました。

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〈ご登壇者プロフィール〉

鬼石 広海さん(AbemaTVクリエイティブディレクター/デザイナー)
2012年サイバーエージェント中途入社。前職は大手制作会社にてフラッシャーとしてWEBサイト制作に従事。サイバーエージェントへ入社後はSNSを中心としたスマートフォンサービスの立ち上げやリニューアルを十数件経験し、現在は株式会社AbemaTVにてインターネットテレビ局「AbemaTV」のクリエイティブディレクターとして、サービス全般のデザインを統括している。

矢野 直子さん(良品計画 生活雑貨部 企画デザイン室長)
美術大学卒業後、株式会社良品計画に入社。ご主人の仕事の都合でスウェーデンに渡り、ヨーロッパの『無印良品』のディレクションを手がける。帰国後、伊勢丹研究所で5年間働いた後に、再び株式会社良品計画に入社、『無印良品』の企画デザイン室室長に。系列ブランド『イデー』のデザインディレクターも務めている。

森田 考陽さん(WOW inc. インターフェイスデザイナー)
多摩美術大学情報デザイン学科卒業。現在は、プログラマー、プロダクトデザイナーだった経験を活かし、画面の中だけに縛られないアプローチで、さまざまなインターフェイスのデザイン開発を手がけている。ランナーの走行ログデータを独自のインフォグラフィックスにビジュアライズできるiOSアプリケーション『RunGraph』の開発に携わる。

本多 達也さん(富士通 UIデザイナー)
大学時代に手話通訳のボランティアや手話サークルの立ち上げ、NPOの設立を経験。ろう者と共同で、新しい音知覚装置の研究を行う。2014年度未踏スーパークリエータ認定。第21回AMD Award新人賞受賞。現在は、富士通株式会社総合デザインセンターにて、振動と光によって音の特徴をユーザーに伝えるデバイス『Ontenna(オンテナ)』の開発に取り組んでいる。

 

一人目の登壇者は、『AbemaTV』のクリエイティブディレクター、鬼石広海さん。

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AbemaTV』は、テレビ朝日とサイバーエージェントが共同開発しているインターネットテレビ局のことで、無料で30以上のチャンネルの番組を楽しむことができるサービスです。2016年のグッドデザイン賞を受賞した本サービスの立ち上げ秘話などを「AbemaTV立ち上げの泥臭い話」と題して、お話いただきました。

『AbemaTV』がグッドデザイン賞を受賞したポイントは、二点あるといいます。
一点目は、開発者全員がUXデザイナーになったこと。
二点目は、経営者がプロダクトにフルコミットしたこと。

まずは、一つ目の“開発者全員がUXデザイナーになったこと”について。
そもそも『AbemaTV』のサービス自体はシンプルなものなので、開発者である自分たち自身が利用シーンをイメージしやすく、高いモチベーションを保つことができる。そこで、開発チームの一人ひとりがUXデザイナーとなって、毎日の会議でそれぞれが作ったプロトタイプを共有。企画の段階では、合計で250以上のプロトタイプを試作されたそうです。
その結果、会員登録なしでコンテンツまで、最短時間でたどり着けることが一番大事なポイントなのでは、という結論に。ワンタイムパスワードを使ってデバイスを共有するシステムや、両隣のチャンネルを先読みできるシステム、スワイプで音量やスケール、明度を調整できる機能など心地よさを追求した『AbemaTV』は、そうして生まれたのだそう。
これは、開発者全員がUXデザイナーになったことが、功を奏したといいます。

続いて、二つ目の“経営者がプロダクトにフルコミットしたこと”について。
試作として250個ものプロダクトを作ったのは、そもそも藤田社長が徹底的に妥協を許さなかったから。
社長自らが開発チームに参加し、毎週の会議で開発者とともに議論。“ユーザーは一度必要の無いアプリと感じたら、二度とそのサービスを使うことはない”という考えをベースに、会議では社長がユーザーの視点で意見をフィードバックされていたそうです。また、開発チームに社長が入ることで、プロダクトに対する本質的でない追加機能要望を徹底的に排除。おかげで、シンプルさを保つことができたといいます。

そうして誕生したのが、『AbemaTV』。
グッドデザイン賞をとった秘訣は、その二点にあったのではないかと、自らの体験を通してお話してくださいました。

 

二人目の登壇者は、株式会社良品計画の企画デザイン室室長である矢野直子さん。

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株式会社良品計画は、衣料品から家庭用品、食品などを販売する『無印良品』の店舗を世界中に展開し、世界中の人から愛され、毎年のようにグッドデザイン賞を受賞されています。グッドデザイン賞を受賞したさまざまなプロダクトに関わってきた矢野さんからは、『無印良品』がどのような経歴を経て今のようになったのか、グッドデザイン賞を受賞し続けてきたポイントについて、お話しいただきました。

『無印良品』は、「わけあって、安い。」というコピーで、1980年に西友のプライベートブランドとして誕生。当時は、40品目の食品からスタートし、1989年に独立。現在は、7,000品目を展開されているのだそうです。

無印良品のプロダクトには、アドバイザーとして携わっているデザイナーの田中一光さんの功績が大きいといいます。創業当時から、良い商品、良い環境、良い情報の真ん中にはいつも田中さんが位置し、月に一回行われるアドバイザリーボードミーティングでは田中さんを中心に、今後の『無印良品』について話し合われてきたのだそう。田中さんが亡くなられた後は、デザイナー(日本デザインセンター代表取締役社長)の原研哉さんがその役目を引き継がれているそうです。

『無印良品』のプロダクト作りの時にいつも言われているのは、“これがいいではなくて、これでいいを目指す”ということ。それは、決してネガティブなことではなく、たとえば自分の部屋に奮発して真っ赤なソファを買ったとして、「後は全部『無印良品』の家具でいいや」という位置付けになりたいということ、と解説。真っ赤なソファは『無印良品』にはないけれど、そのソファを美しく見せてくれる家具や日用品が揃っている、そんなブランドを目指しているのだそうです。そのための手法を5つご紹介くださいました。

  1. ワールドデザイナーの存在(世界中で活躍するデザイナーがデザインに関わっている)
  2. グローバル、ローカル、ユニバーサル(世界中のその土地に根づいた伝統文化を探し、それを新しいプロダクトに。『Found MUJI』の取り組みなど)
  3. 素材の追求と生産者への配慮(『大槌刺し子プロジェクト』や、『カンボジア天然プロジェクト』など)
  4. 生活者との交流(くらしの良品研究所ウェブサイト『IDEA PARK』などを通じて一般の方からの意見を聞き、それを商品の参考にしている)
  5. オブザベーション(お宅訪問を行って普段のままの生活を見せてもらい、日常で人がが無意識に行っていることを課題としてインプット。それを商品化につなげたり、リノベーションの提案もしている)

そうして、“暮らしのプロダクト”から少しずつ“暮らしそのもの”へ広がりつつある『無印良品』。
これからもいろんなことに挑戦していって、ちょっとやりすぎた時には原点に戻る。それが『無印良品』のものづくりだと語ってくださいました。

 

三人目の登壇者は、WOW inc. 所属のインターフェイスデザイナーである森田考陽さん。

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森田さんが開発者として関わったiOS向けのアプリ『RunGraph』が2016年度のグッドデザイン賞を受賞。ランナーの走行ログデータをビジュアル化するという画期的なアプリが、どのようにして生まれたのか、というお話をしていただきました。

WOW inc.のものづくりのテーマは、“自分が欲しいものを作る”ということ。今回の『RunGraph』の場合も、趣味がトレイルランニングだという株式会社フロンテッジの村越さんと、趣味がロードバイクだという森田さんの二人の「大会の参加賞のTシャツをはじめとしたグッズはデザインがよくない」という一致した意見からスタートしたプロダクト。
“ユーザー=自分自身”なので、自分だったらどんなものが欲しいかということを最初に考えていったそうです。ランナーは、自分の記録をスマートフォンなどのデバイスを使って計測し、その数字を見直すもの。ぱっと見ただけでは分かりづらい数字やグラフも、ランナー自身にとってはとても価値のあるもの。ならば、その記録をデザインしようという結論に至ったのだそうです。

ユーザーにアプリを使ってもらうだけでは利益を生み出せないので、Tシャツ販売を始めたそうですが、発売当初は驚くほど売れなかったのだそう。やはり、スマホの画面を見ただけでは実物がイメージしにくく、また、3,980円は出せないのではという意見もあり、その後はスポーツイベントの公式グッズやウェアとして採用してもらったり、マグカップを販売するなどして利益を生み出しているのだといいます。

WOW inc.では、以前インスタレーション作品『工場と遊園地』を自主的に制作し、発表したことがあります。これも、当初は利益を生み出すようには見えなかったものの、その後、作品を見たさまざまな企業や団体からコラボレーションのオファーが来たのだそう。そんな経験を踏まえた上で最後に森田さんは、「みなさんも、欲しいものがない時ってありますよね。その時には、自分で作ってみてください。きっと自分の世界が広がっていきます」というメッセージをくださいました。

 

最後の登壇者は、富士通株式会社のUIデザイナー、本多達也さん。

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大学時代にろう者の方と出会い、知り合ったことをきっかけに、ろう者が音を感じることのできる新しいデバイス『Ontenna(オンテナ)』の開発を進めてこられた本多さん。現在のヘアピンタイプのデバイスが、どのようにして生まれたのかをお話していただきました。

大学一年の時にろう者の方と出会い、それが『Ontenna』を開発するきっかけになったのだといいます。まずは、市販されている音伝達装置の課題や問題点を知ることから始まったのだそう。最初は髪の毛につけるヘアピンタイプではなく、直接肌につけるタイプのものを考えていたそうですが、「肌の負担になるからつけたくない」という意見がろう者の方から出ることも。実験を重ねるうちに、肌ではなく髪の毛に間接的につけるというのがいいのではないかという結論に。まるで猫の髭が空気を感じるように、ろう者の方が音を感じとれることを目指しているのだそうです。

その後、ベンチャー業界の大手メディア『Venture Beat』で取り組みが紹介され、注目を浴びるものの、当時は別の会社でプリンターのデザインなどを行っていたといいます。そんな時に、「うちの会社でそのデバイスを作りませんか?」と声をかけてくれたのが、現在本多さんが勤める富士通株式会社。プロジェクトチームにはろう者の方もいて、広告のモデルも、実際に聴覚障がいのある方を起用、「あ、音がいた。」というキャッチコピーも、聴覚障がいを持つコピーライターの方に依頼をしたものだといいます。

現在は、全国のろう学校や団体に配布して実際に使ってもらい、さまざまな意見をもらっているのだそう。「ダンス部の練習で、みんなとリズムを合わせて踊れるようになった」とか、「40年ぶりにリコーダーを吹くことができた」といううれしい声も。
本多さんはそんな意見を取り入れながら、聴覚障がいを持つ人たちがほんとうに求めるもの、使いたいと思うデバイスを作っていこうとしていると語りました。

 

開発に関わるさまざまな裏話など、めったに聞くことのできない貴重なお話を聞いたところで、ディスカッションへ。事前に用意していた二つの質問について、それぞれお一人ずつにお答えいただきました。

Q.1 “グッドデザイン”とは?

本多さん「誰か一人でもいいから笑顔にできる。それがグッドデザイン。でも、その“誰か”については、森田さんの話を聞いて“自分”でもいいんだなと思いました」

森田さん「使いやすさは重要ですが、それ以上に自分が使いたいと思えるかということ。ユーザーの成長を促してあげられること。それが、いいデザインなのではないかと思います。たとえば、自転車だったら早い自転車よりも、乗りたいと思える自転車がグッドデザインなのではないかと思いますね」

矢野さん「『無印良品』の場合は、やりすぎてもダメ。昨年は空港の施設デザイン全体が、今年はシンプルな890円のバケツがグッドデザイン賞を獲得しました。規模は関係なく、お客さんが喜んでくれていること。それが一番大切なことではないかと思っています」

鬼石さん「困っていることを、いかにアイデアで解決していくかが大事。AbemaTVのようなオンデマンドサービスは、自分で番組を探さなければいけないものがほとんどですが、それは、人にとってけっこうなストレスになることも。そのような日常のちょっとした不便やストレスを解決できるのが、グッドデザインなのではないかと思います」

Q2. グッドデザインの共通点とは?

鬼石さん「森田さんが言っていたように、自分がほんとうに使いたいかどうかというところだと思います。ユーザーが自分なら、その分、情熱を持って開発にも取り組めるので、グッドデザイン賞を取ることができた大きなポイントのひとつかもしれません」

矢野さん「私も、上司からは“自分にマーケティングしろよ”というようなことをよく言われてきましたね。自分が納得できているかは、プロダクト作りにはすごく重要だと思います」

森田さん「共通点というわけではないんですが、うちの会社ではメンバーが自分勝手に好きなものを作っています。でも、それは成長に関わってくる大事なことだと思うんです。これをやり続けたいというものを見つけると、おのずとグッドデザインに近づいていくはず。だから、みなさんにもそうした仕事をしてもらえたらいいなと思います」

本多さん「僕の場合は、自分では分からないことが多いので、ユーザーの意見をとことん聞いて、取り入れていくということをしてきました。自分が使いたいというよりは、ユーザが欲しいと思えるかどうか。そこが重要だと思います」

みなさんが共通しておっしゃっていたのは、“自分が作りたいから作った”ということ。グッドデザイン賞を受賞するプロダクトには、やはりどんなものでも開発者の情熱や思いが人一倍注がれてきたようです。今回は、いつものUX Sketchにも増して応募者数の多かった勉強会。熱心に4人の登壇者の話に耳を傾ける参加者や、その後の懇親会で開発者の4人の方といっしょに和気あいあいとお話をされている参加者のみなさんの姿が見受けられました。

参加されたみなさん、いつもとは一味違うUX Sketchの勉強会はいかがでしたか? みなさんそれぞれに、何かを持ち帰ることができたのではないでしょうか? UX Sketchはこれからも、定期的にイベントを行っていきます。ぜひ、気軽に参加されてみてください!

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