News

大規模リニューアルプロジェクトの舞台裏 -UX & Service Sketch vol.21

2017/01/24

事業開発や新規事業を進める上で、良いポイントや悪いポイントを、毎回登壇者をお招きして共有していくイベント『UX & Service Sketch』。その21回目が、Media Technology Lab.(以下、MTL) Caféで行われました。
今回は、誰もが知るあの有名プロダクトのリニューアルに携われた4組の方々をお招きし、その舞台裏についてお話を伺う貴重な勉強会となりました。

ux22_05

〈ご登壇者〉

橋本 健太郎さん(SCHEMA,Inc. パフォーマー)
『radiko.jp – 長期化プロジェクトのコントロール』

深津 貴之さん(THE GUILD 代表)
『日経電子版 – 確実に良くするUI/UX設計』

縣 俊貴さん(ヌーラボ Backlogプロダクトマネージャ)
藤田 正訓さん(ヌーラボ Backlogエンジニア)
『Backlog – UIリニューアルでのプロダクトマネージャと開発者の取り組み』

二見 武史さん(サンシャインエンタプライズ カスタマーコミュニケーション部 次長)
『サンシャイン水族館 – プロ視点からの脱却』

 

一人目の登壇者は、パソコンやスマートフォンを使って無料でラジオを聴けるサービス『radiko.jp』のリニューアルに携わられた橋本健太郎さん。

ux22_01

自己紹介から始まり、『radiko.jp』のリニューアルのお話、長期プロジェクトのお話、今後のお話と4つの項目に分けてお話していただきました。

radiko.jp – 長期化プロジェクトのコントロール

橋本さんは、もともと大学時代にデザインを専攻されていて、卒業後はリクルートで営業をされていたのだそう。その後、ディレクション専門の会社に入ってディレクションのノウハウを学び、そこで知り合った志連さん(SCHEMA代表取締役)とSCHEMAを立ち上げて現在8年目を迎えます。

SCHEMAは、デザインなどのクリエイティブ全般を幅広く担当するアートディレクションを中心とした制作会社。具体的な例を挙げると、今日の主題テーマである『radiko.jp』のアプリや、TOSHIBA、SHISEIDOのアプリのUI設計、ソーシャルゲームのGREEやCyber Agentのゲームのグラフィック制作などを行っています。そのような大手の受託案件の合間に、自社アプリを作ったり、イベントに出展をしたり。ちなみに台湾にもオフィスがあり、そこではお菓子やお茶のパッケージをデザインしたり、インバウンド施策がらみのことで企業からお話をいただくことも多いのだといいます。また、大手企業のイントラネットの構築をすることもあるのだそうです。

radiko.jpリニューアル後の多くの反響

今回のリニューアルについて、各所からは多くの反響があったのだそう。リニューアル内容は大きく二つ。

一つ目が「タイムフリー」機能。これは、過去一週間以内の番組であれば、いつでも聴き直すことができるという機能です。今までのラジオ業界では考えられないことで、画期的な試みだと話題になりました。

二つ目が、「シェアラジオ」機能。今までは番組単位でシェアすることはできていましたが、今回追加された「シェアラジオ」機能は、その人が好きな一瞬をシェアすることができるという機能で、「タイムフリー」機能が搭載されたからこそ実現できたものです。

今回大きくリニューアルをした『radiko.jp』のユーザー数は1,300万人、そのうち、有料会員が20万人。リニューアル後も好評で、橋本さんはホッとしつつ微調整を続けられているそうです。

そして、さらに今回は、普段は聞くことのできないリニューアルの舞台裏のお話を”裏・radiko”と題してお話いただきました。

裏・radiko

今回のリニューアルにあたって、クライアントからの要望は4つ。

  • 新しい機能をしっかり伝えたい
  • 使いやすさを向上させたい
  • リニューアル感を出したい
  • でも、予算はそんなにない

これらを実現させるためには、リリースまで1年10か月もの時間がかかったのだそうですが、なぜこんなにも時間がかかってしまったのでしょうか?橋本さんいわく、それには三つの要因が考えられるといいます。その要因とは…

  • ディレクター前任者
  • プロジェクト関係者
  • 利権問題

まずは、①ディレクター前任者について

リニューアル前のUI担当者は、tha(ティー・エイチ・エー)さん。この業界で絶対的なポジションにいるthaの後を引き継ぐということで、相当なプレッシャーがかかった。また、以前の『radiko.jp』がとてもよくできていたので、そこに大きな新しい機能を二つ追加するとなると、画面が破綻してしまう恐れがありました。そんなところが大変だったのだといいます。

次に、②PJ関係者について

『radiko.jp』のまわりには、大元の電通さんがいたり、さまざまなラジオ局の方が関わっていたり…。その下で実際にリニューアルの作業をするSCHEMAは、とても大変だったとか。

最後に、③利権問題について

『radiko.jp』をリニューアルするにあたって、まわりには几帳面な方がたくさんいらっしゃって、度々細かい権利関係の確認が入り、作業が止まってしまうこともあったのだそう。

そんな“三つの要因”がありながらもプロトタイピングを行い、度重なるデザイン修正を行って、なんとかリリースへこぎつけたのだそうです。

プロジェクトにはコミュニケーションが大切

続いて、この“三つの要因”をどうやって乗り越えたのかというお話をしていただきました。

SCHEMAでは、『radiko.jp』以外にも多くの大型プロジェクトに携わられてきたのだそうですが、共通のうまくいかない点、またその打開策があるのだとか。

例えば、TOSHIBAとの案件。太陽光発電のエネルギー値を取得・表示するアプリを作られた際は、リリースまで1年ほど時間がかかったのだといいます。この案件の場合も、多数の関係者間の調整をすることになり、それがリリースまで時間がかかった要因の一つだそう。

そんな長期プロジェクトに挑むために大切なことは、多くのステークホルダーが登場するので、ひたすら「調整」が必要。そして、「コミュニケーション」も大事なポイントの一つで、プロジェクトマネジメントの9割を占めるとのこと。

そして、大型プロジェクトのコミュニケーションにおいて絶対に必要なもの。それは、「営業スキル」だといいます。
クリエイターは目の前にある課題をクリアしようとし、営業は与えられたミッションを必ずクリアするという違いがあります。

要するに、クリエイターと営業には出発点とゴールに大きな違いがあり、それによって、結果が大きく変わっていくのだといいます。
クリエイティブ業界の営業においては、「管理」、「調整」、「交渉」、「演出」、「信頼」に加えたハイブリットな営業スタイルが求められています。そこで、各ポジションを例に挙げて、壁にぶつかった時にどうするのかを考えてみると…

壁にぶつかった時の対処方法

【例1】準備していたデザイン提案が通らなかった。さて、どうする?

デザイナーの場合「テイストを変えて提案してみよう」
ディレクターの場合「別のデザイナーでもう一案提案しよう」
営業スキルを持ったプロジェクトマネージャー(=橋本さん)の場合「決裁者を確認して調整しよう」
⇒決裁者がデザイン提案を却下したのには何か要因があり、この要因の調整をすることで、提案の方向性を覆すことが可能だといいます。

【例2】クライアントから担当デザイナーを変えてほしいと言われた。さて、どうする?

デザイナーの場合「・・・(涙)」泣くしかありません!
ディレクターの場合「社内がダメなら、外部のデザイナーにお願いしよう」
営業スキルを持ったプロジェクトマネージャー(=橋本さん)PMの場合「了解です! 追加料金乗せときます!」
⇒橋本さんの場合、デザイナーが変わるということはコストがかかるということをしっかり伝えるそうです。そうすると、大抵のケースでデザイナーを変えずに平和に終わったり、制作チームが疲弊せずにポジティブに受け止めることができます。

【例3】制作予算が足りない。さて、どうする?

単なるデザイナーの場合「徹夜します。週末も出勤します…」
単なるディレクターの場合「外注デザイナーさんに事情を説明して、制作費を減らしてもらおう…」
営業スキルを持ったプロジェクトマネージャー(=橋本さん)PMの場合「別部署を紹介してくれれば、そっちの予算から調整しておきます」
⇒橋本さんは、いつも交渉材料を用意して、バーターを提案し調整するというクセづけをしておくのだそう。こうすると、+αの仕事が増えることにもなり、関わる人全員がハッピーな結果になることもあるといいます。

まとめとして、長期プロジェクトには、クリエイティブの現場に営業スキルが求められているのだと橋本さんはいいます。それは、単なる営業スキルではなく、営業という発想なのだそう。営業=演技力であり、パフォーマンス。

そして、最後に橋本さんは、「クリエイティブな発想で常識を打ち破り、手持ちのカードを増やせ!」、「時代は動き出した!この変化についていけるか。常に視点を柔軟に切り替えろ!」とメッセージを送りました。

 

二人目の登壇者は、『日経電子版』アプリのリニューアルに携わられた深津貴之さん。

ux22_02

『日経電子版』アプリのリニューアルをした時に、どんなことをしていったのか、どんなことを注意していったのかを具体的にお話してくださいました。

日経電子版 – 確実に良くするUI/UX設計

『日経電子版』アプリをリニューアルするにあたって、日経からは内製チームでアプリ運用をまわせるようにしたいとの要望があったのだそう。なので、制作やデザインすべてを深津さんらTHE GUILDが手がけるのではなく、一番初めのコンセプト設定から、プロトタイピング、リリースなど今日に至るまで、2年間ほど「監修」というかたちで携わられているのだそうです。

リニューアルは大きな博打

リニューアルは、博打だと話す深津さん。
そんな深津さんにとって一番大きなキーファクターは、「内部と外部の相対的な位置関係を指摘してくれる人」だそう。孫子の有名な言葉「彼を知り、己を知れば、百戦して危うからず(ライバルがどんな人か、何をやっているのかを知っていて、自分たちがどんな人で何をやっているのかを知っていれば何とかなる)」を例に挙げて、説明していただきました。

では、内製のチームの弱点は? それは、大きく分けて二つ。
一つ目は、世代交代していくうちに、「5年くらいメンテナンスしか経験していない」というようなメンバーが出てきて、新規事業や開発に関わったことがない人材が出てくるリスクがあること。
二つ目は、そういった社内状況になった時、客観的な視点が欠如すること。今のプロダクトがイケているのかイケていないのか、や、自分たちが完成したと思い込んでいるラインは世間的には高いラインなのか低いラインなのかが、わからなくなってしまう可能性があること。

なので、そういったことを指摘してくれる人が、内部でも外部でもいいから必要なのだといいます。今回の『日経電子版』の案件の場合には、その役割を深津さんがされたのだそうです。

第三者の視点で指摘する

日経からの依頼が来た時、深津さんは「言いたいことを言おう。もしもそれで仕事がダメになってしまったら、それはそれでいいや」と思ったのだそう。

そこで「100徳ナイフ」を例に、第三者の視点で、「今の日経さんはこんな感じです。機能を増やしすぎて逆に破綻しています」とはっきりと指摘したのだといいます。
今の課題点やユーザーの求めているものをビジネス関係なく、あくまでユーザー目線で物事を伝え、そこからビジネス的に可能なことを採用してもらうという順序でリニューアルが始まったそうです。

深津さんたちは、まずはプロダクトを作るのではなく、リサーチとテストをひたすら繰り返したそう。その期間は、なんと半年。深津さん曰く、失敗するプロジェクトはこういったリサーチやテストを怠っているのが原因だ、といいます。

徹底的なリサーチとプロトタイピング

実際にどんなリサーチをやっていったのでしょうか?
競合アプリの調査をはじめ、ユーザーへのアンケートの実施、さらに、ユーザーテストの模様をビデオに撮って操作性の調査をするなど、やれることはすべてやって、自社も他社も徹底的に調べる。そうして、できるだけのインプットをした後、ようやくプロトタイピングへ。

プロトタイピングは、プロジェクトを遂行する中でも特に重要なプロセスですが、それはなぜかというと、そのサービス設計が実際にユーザーにとって使い易いものなのかを、実制作に取り掛かる前に検証出来るからだそうです。

低精度(ワイヤーが紙芝居とかで動くプロトタイプ)、中精度(低精度のものに、フォトショップで位置とかレイヤーを精緻化したプロトタイプ)、高精度(Xcodeなどを使って実際に動くプロトタイプ)、その三つに分けてプロトタイプを作っていき、あらゆる可能性を検証して、矛盾を潰し終えてからグラフィックや最終設計を行っていったといいます。

そして、その後にリリース前のテストへ。

内製ではないので詳しいことは言えないものの、深津さんたちは調査会社を通じてユーザーテストを行ったのだそう。その時のユーザーテストのポイントは、ユーザーが言ったことよりもユーザーのやったことに注目すること。それはなぜかというと、ユーザーが言うことは、今までに体験したことがあることと思いつく範囲でのソリューションなので、必ずしもベストアンサーとは言えないから。例えば、「ドリルを買いに来た人が欲しいのは、ドリルではなくて穴である」という言葉のように、本質的なことを考えないとドリルの話で終わってしまうといいます。

その後は、PDCAをまわし続けるだけ

今回の場合は、内製チームがまわしていくので、実際には深津さんらではなく日経の方たちが取り組んでいく。ただ、その場合に気をつけたいのは、リニューアルは構造や歪みを直すことが目的で、リニューアル完成がゴールではない、むしろそこからがスタートだという認識を共有しておくことだそうです。

まとめると、プロダクトを使いやすくするためには、「いいことを思いついちゃったぜ」というような根拠のない施策を導入するのではなく、大量の仮説とアプローチを考えて、総当たりで試していくことが大事。そのためには、リサーチとプロトタイピングに限界まで時間をかけていくことをしていかなければいけないと深津さんはいいます。

余談ですが、この案件の場合には、いかに記事のシェア率を高めるかという取り組みにも挑戦され、実際に記事のシェア率が1.5倍にアップしたのだそう。

思いつきでの大幅リニューアルは、大博打。やる前にできる限りの調査と検証を行えるようにリサーチ、プロトタイピング、テストに時間をかけることが大切。ただ、そこに予算や時間をかけられるようにクライアントを説得することが一番難しいかもしれないが、がんばってほしい。そんな、参加者への応援とも思えるメッセージで、深津さんのお話が終了しました。

 

三人目の登壇者は、『Backlog』のリニューアルに携わられたプロダクトマネージャの縣俊貴さんとエンジニアの藤田正訓さん。

ux22_03

12月6日にリニューアルしたばかりの『Backlog』について、リニューアルまでの経緯や開発者ならではの苦労話などをお話してくださいました。

Backlog – UIリニューアルでのプロダクトマネージャと開発者の取り組み

『Backlog』は、オールインワンなプロジェクト管理ツール。タスク管理が基本ではあるものの、ファイル共有などの機能もあります。“誰でも簡単に、仕事の中に楽しさを”というコンセプトで、日々開発を進められているのだそう。公開から12年、今ではヌーラボの主力事業である『Backlog』の有料会員数は約5,000社。月間16万人の利用者がいる一大サービスで、たくさんの人の仕事を日々支えています。

大人気サービスのリニューアル

なぜ、そんな大人気の『Backlog』のリニューアルを行ったのでしょうか?

12年前の公開当時は、たくさんの人に『Backlog』を使ってもらいたいという思いで、多くの機能を取り入れていったのだと縣氏と藤田氏は語ります。リリースから日を重ね、ユーザーも増えていく一方で“作り変えたい症候群”にもたびたび襲われました。そうした心境の中で、ユーザーにとって何が必要なのかを考え続け、大規模なリニューアルには着手しなかったそうです。

そのまま、12年間運営を続け、細かい機能追加をしていった結果、技術面や、運用面で整合性が取れなくなっていったのだそうです。今後、新機能をどんどん取り入れ『Backlog』をよりよいサービスにしていくための下地作りとして、今回の大規模リニューアルが行われました。

当初は、プログラムの部分はいじらずにUIのみのリニューアルで十分と考えていたため、5か月間ほどのプロジェクト期間を見込んでいましたが、実際にかかった期間は一年以上。その結果、今回のリニューアルは『Backlog』史上最大のプロジェクトに。

リリースしたばかりでまだ大きな反響はないものの、ユーザー数が減っていないという事実は、一つの成功の証なのではと話します。リニューアル直後は、機能を削除していないのに「この機能がなくなった」という戸惑いの声もありました。しかし、それはサービスが刷新した時にはつきものなのだということもわかったそうです。

Backlogリニューアルのこだわり

実際のリニューアル内容はというと、まずは画面がごちゃごちゃとしていたので、一つ目にユーザーが望む作業がすぐに行えるようにすっきりとさせること。二つ目に、12年前のデザインで古い印象を受けてしまうUIを今の時代に即したものに。一方で、“仕事の中に楽しさを”というコンセプトは一貫してぶらさないで進めたそうです。

ちなみに、今回決めていたことは、機能の削除はしないということ。この先、機能の整理をしていく予定ではあるものの、リニューアルではそこはいじらなかったのだそうです。さらに、大幅な画面変更はしないということも、リニューアル時のルールだったといいます。

そして、『Backlog』の特徴のひとつであるアイコンについて。
細い線でスッとした雰囲気の、所謂フラットデザインのアイコンが多いなか、『Backlog』は丸みのあるもっちりとしたアイコンを採用しています。

他にも、仲間の意見に「いいね」の意味で星をつけることができる機能には、思わず連打したくなるようなアニメーションを追加したり、『Backlog』からお知らせがあるたびにゴリラのキャラクターを出現させたり。そのゴリラに「バナナをあげたい!」というユーザーの声も出るほど、『Backlog』の提供するちょっとした遊び心はユーザーに喜ばれているそうです。

その他にもさまざまなリニューアル内容があり、そこについてはブログでぎっしりと書かれているのだそう。(みなさん、ぜひブログもごらんください)

ユーザーからの愛ある厳しい意見

ここからは、実際にリニューアルを行われた中での苦労話をご紹介いただきました。

『Backlog』はもともと、自社で使えるツールを作りたいというところから始まっていて、普段から社員全員がヘビーユーザー。5月に社内ベータ版がリリースされ、関心のある社員はまだ機能も未完成の状態から使っていたそうです。12年前のリリース当初は、IT関係の開発者向けのサービスでしたが、時が経つにつれてそうではないユーザーもどんどん増え、自分たちが想定範囲を超えたユーザーの意見を耳にするように。
そのためユーザビリティテストを行い、改善を重ね、晴れて9月にユーザー向けのベータ版リリースができたと話しました。

しかし、ユーザーは仕事で『Backlog』を使っていて、「変えてほしい」という要望を出したわけではないので、リニューアルを迷惑に感じる方もいるかもしれない。そこで、「興味がある方は使ってください。いつでも従来の画面に戻すことができます」という一言を添えてベータ版をリリース。ベータ版に対するユーザーの反応を待ったといいます。
設置した投票ボタンなどを通じていくつもの意見が。その中には厳しい意見がありましたが、それは『Backlog』を愛してくれているからこその意見ととらえ、真摯に受け止めて改善したそうです。
しかし、ベータ版を利用してくれているユーザーは全体のうちのたったの10%と少なかったので、「新しいBacklogができたので、使ってみてフィードバックをください」と、ダイアログを使ってユーザーにお知らせしました。すると、ベータ版の利用率はアップ。
11月には全ユーザーの画面を一旦新バージョンにしました。「従来の画面に戻したい方は戻すこともできます」と告知していましたが、ほとんどの方が新バージョンのままで使ってくださったので、12月に思い切ってリニューアル版をリリースしたのだそうです。

そして最後に、お二人から今回のリニューアルでの気づきを共有いただきました。

一つ目に、リニューアルをする際は、コンセプトが重要だということ。『Backlog』のリニューアルは、何があっても決めたコンセプトに立ち返り、進めていったそうです。

二つ目に、ユーザーとのコミュニケーションが重要だということ。ユーザーの意見や要望に助けられたことで、今の『Backlog』はあると考えられているのだそうです。

三つ目に、最後まであきらめずに粘り強くやること。ユーザーの声にひとつひとつ耳を傾け、丁寧に分析して対応する。その際に目標を定めることも大事だといいます。『Backlog』では、目標値がユーザー数にあたるのだそう。貴重なお話を、ありがとうございました。

 

四人目の登壇者は、池袋にある『サンシャイン水族館』のリニューアルに携わられた二見武史さん。

ux22_04

『サンシャイン水族館』の前身は、サンシャイン国際水族館。5年前にリニューアルをされて現在の水族館となったそうです。そのリニューアルの際のお話をしていただきました。

『サンシャイン水族館 – プロ視点からの脱却』

現在の『サンシャイン水族館』は、まるでアシカが空を泳ぐような水槽などをメインとした展示をしています。
38年前にサンシャイン国際水族館がオープンした当時は、東京都内に水族館がなく、年間180万人もの来客数があったそう。その頃の池袋界隈は、アミューズメント施設もほとんどなかったのですが、その後、映画館やボーリング場ができ、“アニメの街”としても知られるようになり、遊び方が多様化してきたことで、池袋駅からは少し離れた場所にあるサンシャイン国際水族館の来場者数も右肩下がりに…。
その後、ラッコやウーパールーパーを展示するなどのブームもあり、一次的に盛り返すことはあったものの最終的に来客数は年間90万人弱に…。これはまずいとリニューアルの話が持ち上がったのだそう。

リニューアルの話を上層部に掛け合うも、なかなか内容が認められず、4、5年が経つ。これでは埒があかないと、水族館のプロデュースをしている中村元さんの協力を得て、リニューアルがついに実現したそうです。

ほんとうの意味でのリニューアル

何をリニューアルしたかというと、一年間水族館を休館し、大胆にも全て壊して新しく作り直したのだといいます。
しかし、二見さんの中でのほんとうのリニューアルは、水槽などのハード面ではなく働くスタッフの意識改革など、ソフト面が大きかったといいます。それが、今回のお題でもある「プロ視点からの脱却」。プロ視点ももちろん必要だけれど、プロであるがゆえに視点が狂ってしまう部分も。大切な部分を見直そうという意味でのリニューアルだったと振り返ります。

二見さんは、現在は販促物などの担当をされていますが、もともとは“飼育員”。
“飼育員”というと、動物たちをただ飼育しているように思えますが、ほんとうは“展示のプロ”でなくてはなりません。

通常、水族館が新しくできる場合の多くは、どこからともなく館長が現れ、その人と建築士が話し合い、水族館を作っていく。しかしそこには、水族館側の気持ちしか含まれていません。
ほんとうに見なくてはいけないもの、考えなくてはいけないものは何か?それは、お客さまの気持ちであるといいます。なので、5年前のリニューアルの際には、お客さまにどんな気持ちになってほしいのか、この水族館に何を求めてくるのかを考えながら一つひとつの水槽を設置したのだそうです。

ほとんどのお客さまは、水族館に楽しさや癒しを求めて来ているのに、動物園や水族館の目的は、“教育と研究と繁殖(保護)”が重要と捉えられていることが多く、レクリエーションも挙げられてはいますが、強くは意識づけられておりません。
提供する側の意識とお客様が求めるものの間に大きなギャップがあったのが、今までの水族館業界でした。

さらに『サンシャイン水族館』はビルの上にあるので、重量制限もあります。様々な制限がある中、いかに水中感や安らぎを演出できるかがプロの展示だと信じリニューアルを進めていったそうです。

例えば水槽の角が見えるとお客さまは、「あそこが水槽の端なんだな」とわかってしまい、一気に現実に引き戻されてしまうので、角を丸くして奥行きがわかりづらくするなど、プロの工夫を取り入れていったといいます。
そうして、お客さまの視点を自分たちの中に落とし込んでいったのだそう。

その次は、階段であったり入り口などの、水槽と水槽の間の環境・空間を、「海の中に来たんだ」、「都会のオアシスに来たんだ」という感覚になってもらうためのプロジェクトが立ち上がったのだといいます。
プロジェクトチームは水族館スタッフだけでなく、(株)サンシャインシティ、(株)サンシャインエンタプライズの社内から約30人ずつが選ばれ、さらに選ばれなかった人も巻き込んで進めていったのだといいます。例えば、社内のホワイトボードに「どんな階段だったらあなたは上りたいですか?」と書いて、社員全員から意見を集めてみたり。ひとつひとつの意見はさまざまですが、それをまとめてフィードバックする会議も開催。そうすることで、社員全員の気持ちが一つになっていったといいます。

ホスピタリティー面での改革

また、ホスピタリティーの面でもリニューアルを決行。以前は、水槽のそばにスタッフはいなくて、お客さまが何か気になったことや知りたいことがあっても聞くことができませんでした。
そこを改善し、お客さまを笑顔でお迎えする解説員を様々な場所に設置しました。
それも一つの部署だけでやるのではなく、社員全員が「ホスピタリティーノート」というものを携帯し、社内全体で意識改革を行っていったといいます。

サンシャイン水族館では、その他にも社内から意見を出し合い、新しい試みをされています。
例えば、10月に期間限定で行われ大反響となったお化け屋敷イベント。これは、「“水族館”という場所に固執しないで、何かできないだろうか」という社員の一言から始まったのだそう。そこから直接、お化け屋敷プロデューサーの五味弘文さんにお願いをし、水族館をまるごとお化け屋敷にするイベントが行われることになったのだといいます。

さらなる「プロからの脱却」へ

また、2017年春にはさらにマリンガーデンのリニューアルオープンが決定。

世界初!天空を泳ぐペンギン“といった新しい展示が始まるのだそう。このリニューアルを検討する時、二見さんたちは『サンシャイン水族館』の強みは何だろうと考えました。
その答えは、ビルの上にあることと、屋外に水槽があること。
そこで、天空を泳ぐペンギンの案が、社内全員一致で決まったのだといいます。その時、何が大切だったかというと、核となる人を見つけ、その人をきちんとフォローし、それを全員が楽しいと思える環境を作っていくこと。それから、自分たちが正しいと思っていることを当たり前だと思わないこと。それが、今回の主題である「プロからの脱却」だったといいます。

今回この講座でお話するということも、従来の飼育員という立場では考えられなかったこと。
水族館がもともとの教育という目的を果たしたいのであれば、今こうして話していることが教育の一環になるのでは。また、何をリニューアルすればいいのかというものは、意外にも自分たちの中にあるものだということを今回は一番お伝えしたいです。という参加者へのメッセージで、二見さんのお話は締めくくられました。

ここからは、4組の登壇者の方に壇上に戻っていただき、トークセッションの時間へ。主催者側から提示されたお題に、お一人ずつ率直な思いをお話していただきました。

 

Q. リニューアルを成功させるキーファクターとは?

橋本さん「これは、受託の仕事をしている僕らだからかもしれないですが、プロジェクトに関わるステークホルダーの背景や環境をいち早く知ること。それが、リニューアル成功につながると思っています。」

縣さん「いろいろなチャネルで情報を集め続けて、最後まであきらめない姿勢が大事だったのかなと思います。」

藤田さん「こんな風にリニューアルをするんだという軸をずらさないことかなと思います。その他はいろいろと変わっていくこともありますが、一番大切な部分だけは変えずに進めていくことが大事だと思います。」

二見さん「みなさんがそれぞれおっしゃっていることもそうだなと思うんですが、サンシャイン水族館のリニューアルには、仲間をしっかりと作るということが一番大切だったかなと思います。ミッションを成功させるためには、自分の力だけではどうにもならないこともあります。でも、人が集まればそれぞれの得意なことを掛け合わせて実現できることもあるので、やはり仲間は大切だなと感じています。」

深津さん「個人的には、ノリと勢いで博打のようなリニューアルをしないということが一番大事かなと思います。そんなことあるわけないって思うかもしれませんが、結構ありがち。ボタン一個動かすのにテストしないとダメと言っているような会社が、大幅リニューアルになった瞬間に突然思いつきで競合のプロダクトをまるごとコピーするということも多いので、変えるからにはそれなりに実験などを重ねて、根拠がある上でリニューアルしていかないといけないと思います。」

Q. リニューアルを行う上でKPI(需要業績評価指標)の低下など、ある程度の失敗も許容範囲として考えられていましたか?

深津さん「ケースバイケースですが、お客さんはKPIを絶対に下げたくないという方もいます。でも、個人的には、例えばアプリの場合、PV(ページビュー)やダウンロード数が落ちても、中長期の歪みを取ることとリピート率をあげることが大切なんじゃないかな、と思っています。」

二見さん「みなさんの分野とは違いますが、私たちは失敗が絶対に許されなかったところがあります。池袋といえば、サンシャイン60。その中でも一番先にあげられるのが水族館。その水族館が一年間休館するということで、当時は大騒動だったんです。なので、“失敗”というワードは誰も口にできない状況でした(笑)」

橋本さん「僕たちは基本的に受託というかたちでお仕事をしているので、KPIは下げないようにしていますが、従来のユーザーさんがいる場合、仮にそのサービスがリニューアル後使いやすくなったとしても、一旦下がる可能性はあると思っています。なので、こちらのクリエイティブ側を守る意味でも、リニューアル直後は下がる可能性はあるということをクライアントさんには前もってお伝えするようにしています。」

縣さん「KPIや売り上げといったものをなるべく下げないようにという思いで、僕らもリニューアルを行っていました。でも、常にそのリスクはあるので、リスクを最低限に留めることができるようになってからリリースをしました。後は、何もしなければリスクがなくなるのかというとそういうわけではなくて、長期的なリスクを見据えてリニューアルを行いました。」

ux22_06

Q. 今回のリニューアル事例4件の共通点とは?

橋本さん「僕は、サンシャイン水族館の二見さんと共通点があったなと思います。radiko.jpのリニューアルにあたってとにかく関わる人が多かったんですが、プロジェクトに関わる全員とサシ飲みできるくらいの距離感までつめたことですね。これが意外と効果的で、コミュニケーションとか関係性を重要視したことがよかったなあと思っています。そんなところが、共通していたんじゃないかなと思います。」

二見さん「僕も、コミュニケーションを大事にするという部分は、ほんとうに共通しているんじゃないかなと思います。」

縣さん「日経電子版の深津さんのお話の中で、リリース後にPDCAを回していって調節するというお話がありましたが、それは私たちもいっしょだなと思いましたね。」

深津さん「共通点としては、やはりコミュニケーションが大切というところだと思いました。僕らの場合には、そのコミュニケーションの使い方が違うかもしれないですが、一番偉い人や意思決定者に現場の声を直接伝える仕組みがあるというのは、けっこう重要かなと思っています。」

 

Q. リニューアルにあたって機能を削いでいったというお話が多かったですが、radiko.jpの場合は機能を増やすリニューアルでしたよね。その中でも、機能を削ぐということは意識されましたか?

橋本さん「radiko.jpのリニューアルの際に、クライアントさんから機能は追加するもののフラットなデザインにしてほしいとの要望を受けました。なので、機能を増やしながらも、シンプルにしていくということをずっと考えながら進めていきました。」

 

Q. サンシャイン水族館の場合は、機能などを削ぐという作業はされましたか?

二見さん「リニューアル前のサンシャイン国際水族館には、120トンの水槽の中に70種類の魚がいたんです。でも、例えば西表島の海に飛び込んでも、実際には30種類くらいしかいないんですよね。そこで、リニューアル後は240トンの水槽の中に約30種類の魚を展示することにしました。上の人にはリニューアルするのに数が減るのはどういうことだと言われましたが、やはり僕らはお客さまに癒しを与えたかったので、魚の解説文も減らして、ほんとうに海の中に来たような感覚を味わってもらえるように、機能を削ぐということをしていきました。」

 

こうして、トークセッションが終了しました。登壇者のみなさん、ほんとうにありがとうございました。

今回、大規模なリニューアルの舞台裏のお話を聞いていく中で、第三者の視点が大事だということを、みなさんおっしゃっていたように思います。
それは、第三者の視点を持った人をチームに入れたり、ユーザーアンケートで得たり、社内の中でそういった視点を持つ人を生み出す文化を作ったり、といったそれぞれのチームによって方法は違えど、第三者の視点はプロジェクトのリニューアルの際に大事なポイントの一つであったと言えるのではないでしょうか?

参加者のみなさん、普段なかなか聞くことのできない話題がたくさん飛び出した今回のUX & Service Sketchは、いかがでしたか?今後、お仕事をされていく上で何かヒントとなるものがあったのではないでしょうか。

UX & Service Sketchでは、定期的にイベントを行っています。今回は参加できなかったという方も、ぜひ次回のチャンスをお見逃しなく!